肝試し組で都市伝説1
ベッドの下の男 × 五月七日 朝霞(つゆり あさか)
夏川 彩(なつかわ さやか)
高校を卒業し、わたしは東京の大学へと進学した。東京での一人暮らしと大学生活。充実はしていたけど、少しだけ寂しかった。
そんな、夏休みのある日。高校の時に同じクラスで仲の良かった、夏川彩からLINEが来た。
『やっほー(^○^) つゆり、生きてるー!?』
生きてる?ってなんだよ。生きてるに決まってるじゃん。まったく……。
取り敢えず、何か用があるのかなと思い適当に返事を打った。
『生きてるよー。どした?』
返事はすぐに返ってきた。文面を見て思わず吹き出してしまう。
『今とうきよう来てる!これからつゆりの家に行っても大丈夫でしょうか…?』
相変わらず彼女の誤字はヒドイ。もう少し落ち着いて打てばいいのに。てか、送る前に確認しようよ。
まぁ、面白いからいいんだけどさ。
家の場所を知らない彩に駅で待っててもらい、わたしは支度をして家を出た。
彩と合流した後は、最近見つけた美味しいパスタのお店に行ったり一緒にショッピングをしたりした。久々に遊ぶ友達。すごく楽しかった。
「そいや、彩はこの後どうするの? 帰るの?」
「ううん、ホテルかどっかに泊まろうかと思ってる」
ホテルって……こんな時間じゃもう無理でしょ。予約もしてないみたいだし。
それを告げると彩は「はっ!」と言い、どうしようと項垂れる。この子、大丈夫だろうか。
「じゃあ、家泊まってく? ベッドは一つしかないから、彩は床になるけど」
「マジで!? 助かったぁ〜」
ぱっと顔を輝かせる彩に苦笑してしまう。まったく、仕方ない人だな……。ま、いいんだけどさ。
適当な店で夕飯を済ませ、家に帰る。着いた頃にはすっかり暗くなっていた。
部屋に入っても、話題は尽きなかった。大学はどうだとか、仕事は順調かとか。色んな話をした。気づけば、もう結構いい時間だ。
彩が布団を被ったのを確認し部屋の明かりを消した。わたしもベッドに潜る。疲れていたのか、すぐに眠りに着くことが出来た。
「……り……つゆり!」
「ん……何よ、彩……」
眠っていたわたしは、ゆさゆさと揺さぶられて目を覚ました。辺りはまだ暗い。恐らく夜中だろう。
彩は、わたしを揺さぶるのをやめ少し考えるような仕草を見せ口を開く。
「ウチ、アイス食べたくなっちゃった! ね、コンビニ行こうよ!」
「はぁ……? 1人で行って来なよ……」
こちとら眠いんじゃい。今何時だと思ってんだこいつ。時間はわかんないが、夜中だろう。
それにコンビニはここから歩いて2分くらいの場所にある。帰ってくるとき彩も通ってるから場所はわかるはずだ。わたしがいなくても行けるはず。
それなのに、彩はどうしても一緒に行きたいとしつこくわたしを揺する。眠い上に何度も揺すられ、イライラしてきたわたしは渋々と彼女と共にコンビニに行くことにした。こんなに非常識な人だと思わなかった。
玄関から外に出ると、彩がわたしの手を掴んで走り出す。突然のことに転びそうになるが、なんとか堪えた。半ば引きずられるようにアパートの階段を降りたところで彼女の手を振り払う。
「ちょ……と! 何なのいきなり、いい加減怒るよ!」
「あの、あのね……ウチ、見ちゃったの……」
何を、と聞こうとして彩の顔が真っ青なのに気付いた。心なしか震えているような気がする。
何だか様子がおかしい。何を見たと言うのだろうか。もしかして、幽霊とか……?
「つ、つゆりのベッドの下にね……包丁を持った男の人が、コッチを見てたの……! 早く警察行こうよ!」
そうしてまた引っ張られながら近くの交番に駆け込んだ。事情を説明すると、数人の警察官が慌ただしく出ていった。ここで待っているように言われたわたしたちは大人しく座って待つことにした。
暫くして警察の人が戻ってきた。
警察の話によると、わたしのベッドの下にいたのは最近巷を騒がせている連続通り魔事件の犯人だったらしい。
あの時、彩がわたしを外に連れ出してくれなければ、もしかしたらわたしは通り魔に殺されていたのかもしれないーー。
*end*