肝試し組で都市伝説2


ひとりかくれんぼ × 小鳥遊叶音







 最近、あたしのクラスでは『都市伝説』が大流行していた。オカルトやホラー関係が好きなあたしも、勿論その都市伝説の話に夢中だった。
 中でもあたしの興味を引いたのが、『ひとりかくれんぼ』という都市伝説。ぬいぐるみ、米、赤い糸があれば出来るという簡単な遊びだ。怖いことはあまり得意ではないのだが、その時は恐怖心より好奇心の方が勝っていた。


 学校が終わり、夕飯の買い物をするために寄ったスーパーで赤い糸を買った。これで準備物は揃った。塩は、家にあるはずだしね。
 夜、家族が寝静まったのを確認してリビングへと降りた。手には、小さい頃に祖母から貰ったピンクのうさぎ。本当は宝物だから使いたくはなかったのだが、手足のあるぬいぐるみは生憎これしかないのだ。あるにはあるが、大きすぎてとてもじゃないがひとりかくれんぼには使えない。
 リビングの明かりを点け、米をボールに準備する。一通り準備が終わったところで、予め調べておいたやり方のページを携帯表示しハサミを手に取った。

「えーと、綿を取り出して米を詰めるっと」

 ぬいぐるみの腹をハサミで裂き綿を取り出していく。手先や耳先の綿を取り出すのに少々苦戦したが、どうにかぬいぐるみの綿を全て取り出すことが出来た。綿を抜かれたぬいぐるみは、ぺちゃんこになりうさぎの形をしたただの布切れと化していた。
 ボールに入れておいた米をなるべくこぼさない様にぬいぐるみの中に詰める。綿より重量のある米は案外簡単にぬいぐるみの中へ詰め込むことが出来た。

「米を詰めたら爪……え、爪切っちゃったんだけど」

 やり方の欄には“自分の爪を入れる”とあった。しかし、今朝学校に行く前に爪は綺麗に切ってしまった。いつも深爪気味になってしまうので、勿論ぬいぐるみに入れられる爪は残っていない。
 諦めようかと思ったが、その欄には※の後に“爪の代わりに血や髪の毛でも構わない”と記述があった。ほっとして、手元にあったハサミで指先を少しだけ切り自分の血を一滴ぬいぐるみの中に入れた。……入れてしまった。この時のあたしは知らなかった。血を入れてしまうと、より強力な霊が集まってきてしまうのだという。
 切った指先に絆創膏を貼り付け、今度は裂いた場所を赤い糸で縫いつける。余った糸はぬいぐるみの体に巻き付けた。
 時計を見ると、午前2時を少し回ったところだった。午前3時にならないとひとりかくれんぼは行うことが出来ない。後一時間か……ゲームでもしてようかな。


 3時になった。
 塩水を準備して、ぬいぐるみを持ち浴室に向かった。洗面器に水を張り、目の前にぬいぐるみを掲げる。

「最初は叶音が鬼だから。最初は叶音が鬼だから。最初は叶音が鬼だから」

 3回唱え、洗面器の中にぬいぐるみを入れ浴室を出た。
 電気を消し、家にある唯一のアナログテレビをつける。画面に砂嵐が流れ始めた。
 今頃になって恐怖心がじわじわと広がってきた。頭を振ってそれを誤魔化し、目を閉じて10秒数える。
 数え終わり、携帯の明かりを頼りにキッチンから包丁を取る。そして浴室に行くと、洗面器の中に入れたぬいぐるみを携帯で照らす。水をすって少しだけ色が濃くなっている。

「うさ太、みーつけた」

 適当につけたぬいぐるみの名前。うさぎだからうさ太、なんて安直だろうか。まぁ、名前は重要じゃないだろうしいいだろう。
 
「次はうさ太が鬼だから」

 やり方に書いてある通り宣言し、ぬいぐるみの腹目掛けて包丁を振り下ろす。包丁は意外と深く突き刺さった。研いだからかな。
 そのままぬいぐるみを浴槽に入れ、アナログテレビが置いてある部屋の押し入れに隠れた。勿論、ちゃんと塩水を持って。
 うちの押し入れは戸が壊れているのかちゃんと閉まらず、僅かに隙間が空いてしまう。その隙間からは、ちょうど砂嵐が映っているテレビが見える。
 どれくらいそうしていただろうか。特に何も起こらず、ただいたずらに時間だけが過ぎていった。
 もうやめようかと思ったその時、テレビから聞こえていたザーというノイズが止んだ。
 テレビ画面は、いつの間にか砂嵐から奇妙な映像へと変わっていた。こんな夜中に放送している番組なんてある筈ない。それなら、あれは一体……。
 早く終わらせてしまおう。そう思い押し入れの戸に手をかけた時だった。
 ヒタヒタと、何かが歩いている。飼っている猫かと思ったが、そういえばあの子は上の部屋にいるんだった。ドアを開けられる筈がないのでここにはいない。
 それなら、今聞こえているこの足音は誰のものなのか。
 心臓が早鐘を打つ。
 まさか、そんな筈ない。だってあれは只の都市伝説。ぬいぐるみが動くわけ、ないじゃないか。
 必死に考えを否定しようとするが、ぬいぐるみ以外今この階で歩くのはあたししかいないのだ。
 早く終わらせなければ。確か、塩水を口に含んでコップの塩水、口に含んだ塩水の順でかけて「私の勝ち」と3回唱えれば――

「あっ……!?」

 コトンと音を立ててコップが転がる。当然、中に入っていた塩水も溢れてしまった。これでは、ひとりかくれんぼを終わらせることが出来ない。
 そして慌てて口を塞いだ。今、あたし声出しちゃった……。
 ひとりかくれんぼを行う際の注意事項『決して声を出してはならない』。これを破ってしまったのだ。
 あたしに気付いたのか、足音は徐々に隠れ場所である押し入れの方へと近づいてくる。足音が近くなるにつれて、心臓の音もまた大きくなる。外に聞こえてしまっているんじゃないかと錯覚するくらい、自分の心臓の音がうるさい。
 ある程度近くなったところで、足音がピタリと止まった。丁度、押し入れの目の前あたり。
 なんで止まるのよ、早くどこかへ行ってよ……!
 暫く息を潜めていると、ヒタヒタと足音は遠ざかって行った。どうやら、押し入れの中に隠れているというところまでは分からなかったらしい。
 安堵から、息を吐き出した。刹那。
 ヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタヒタ――。
 物凄い勢いで足音が近づいてくる。しまったと思った時には時すでに遅し。
 ガタンと押し入れの戸が鳴る。そしてゆっくり、開いた。10cmくらい隙間が広がったあたりで戸が止まる。

『カ、ノン、チャ……ミツケ、タ』

「ひっ……!?」

 笑い声を発しながら、目の前にぬいぐるみが現れた。ケタケタケタケタ、子供のような奇妙な声で笑い続けている。
 そのぬいぐるみの手には――。





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