「…ここ…ですか」
「すまんの、食べに行こうと言ったはよいが金欠なんじゃ」
連れてきたのは路地にある小さな居酒屋。
柳生には不釣り合いな場所だ。
柳生と一緒に食事を食べに行くといつも静かでちょっとお高いところに行くことになる。
柳生は坊っちゃんだから良いが俺は一介の貧乏学生。
柳生は不機嫌になってしまっただろうかと顔を覗いてみた。
そこには思いとは逆に、目を輝かせた柳生がいた。
「…ここで大丈夫かの?」
一応聞いてみた。
「……こういう店にはなかなか来る機会はなかったので…貴方と来れて嬉しいです」
なんて恥ずかしい言葉をサラッと言うんだ。
でも満更ではない。
「じゃあ入るぜよ」
俺は店の入口扉を開けた。
「いらっしゃい!!」
扉を開けると仕事帰りのサラリーマンの声で賑やかだった。
柳生の方を見ると少し驚いているようだった。
「おぅ!白髪の兄ちゃんじゃねぇか!」
俺に話しかけたのは小の店の店主だ。
「だから白髪じゃのうて銀髪なんじゃて!…まぁいいや、おっちゃん、二人席空いてるかの?」
「座敷が空いてるぞ……ん?」
店主は柳生に気付きマジマジと見ていた。
柳生は少しおどおどしていた。
「兄ちゃんいつも一人で来るから友達も相手もいないと思っていたが…べっぴんさんがいるんじゃねぇかよ」
「なっ…!?」
自分でも顔が赤くなっているのが分かった。
「柳生比呂士です、仁王くんがいつもお世話になっております」
お前は俺の母親か!!
「そうかい、ヒロシ君か、ゆっくりしていってな」
「ありがとうございます」
柳生は律儀にお辞儀していた。
「…やぎゅ!席行くぜよ!」
俺は柳生の手を取って空いている座敷席に向かった。
空いていた座敷席は店の一番奥で周りの賑やかさから少し離れていた。
「そっち座りんしゃい」
「はい」
柳生は俺の脱ぎ散らかした靴をキチンと直し、自分の靴も綺麗に並べていた。
「何食べるかの?」
「そうですね…」
メニューを見て伏し目になったとき、柳生の長いまつ毛が目立ち、少しドキッとした。
「じゃあシーザーサラダにしましょうかね」
「酒は?」
「私はお酒は弱いので…」
「飲めないわけじゃないんじゃろ?じゃあたまには飲みんしゃい」
柳生は少し悩み、なぜかスケジュール帳を取り出した。
「分かりました、飲みましょう」
柳生がいきなりにっこり笑ってきたのでビックリして顔が熱くなった。
「注文お願いー」
柳生から顔を背け店員を呼んだ。
顔が赤いのバレただろうか。
俺ばかりこんな揺さぶられてホント柳生はズルい。
すぐに店員が来て注文を取り始めた。
「俺は串焼きとカシスオレンジ」
「私はシーザーサラダとグレープフルーツのチューハイをお願いします」
「かしこまりました」
しばらくして注文したものが来た。
お酒の入ったグラスを持って乾杯をした。