「柳生、大キライ」
放課後、私は日直の日誌を書いていた。
私の前には仁王君が椅子を持ってきて座って日誌を書き終わるのを待っている。
そして唐突に彼は笑顔で私に向かって言った。
「そうですか、さようなら」
ちょうど日誌を書き終えたので荷物をまとめ始める。
「ちょ!?やぎゅー冷たい!!」
「だって大キライなのでしょう?」
「今日はエイプリルフールじゃ!!だから嘘じゃよー!!」
「知ってます」
私は同じく笑顔で返答してあげた。
そう、今日は4月1日。エイプリルフール。
だから彼の『大キライ』は嘘。
まぁちゃんと分かった上でこのような態度をとったのだが。
いつも人のことをおちょくる彼が慌てているのを見るのは面白い。
「大好きじゃー!!柳生ー!!これは本当じゃき!!」
「はいはい、そんなこと言われなくても分かってますよ」
抱きついてきた仁王君の頭を撫でてやる。
するとまるで猫のようにゴロゴロと喉を鳴らし、頭を私の胸に擦ってくる。
「私は職員室に日誌を届けてきますので仁王君は先に昇降口で待っていてくださいますか?すぐ行きますので」
「おん!待っとるからの、早く、な」
「分かってます」
仁王君は踵を踏んだ上履きをパタパタと鳴らしながら小走りで昇降口へ行った。
私は日誌を届けに職員室へ。
「……っ」
急に目の前がグラついた。
机に手をかけしゃがみこんだ。
「はっ…はぁ…う…」
苦しい。上手く息が出来ない。
(落ち着け…落ち着け…)
ゆっくりと深呼吸をし、どうにか呼吸を整える。
「はぁ……」
こんな症状が出るのは初めてではなかった。
1回目は仁王君と喧嘩したとき、
2回目は仁王君が女子生徒と仲良くしているのを見かけたとき、
そして3回目…、
彼に『大キライ』と言われた。
嘘と分かっていても、
彼に拒絶されたと思うと胸が苦しくなる。
彼は私にとっての精神安定剤のようなもの。
本当に彼に別れを告げられたとき、
私はどうなってしまうのか。
「……死んでしまうんでしょうか…」
自嘲気味に言ってみるがもちろん返答もなく教室に響くだけ。
「仁王君……」
早く職員室に行って日誌を届けに行こう。
そして早く昇降口へ行こう。
早く仁王君に会いたい。
早く、早く、早く、
そうしないと
私は死んでしまいそうだ。