行く水 | ナノ


波立つ‐2

「こいつほど残念なやつ見たことねーよ」

「…そうか?」

森山由孝という人は、試合で見つけた可愛い子のために戦うという特殊な性質を持っている。そのためか、なかなか彼女は出来たことがない。

笠松に言わせれば、「残念なイケメン」らしい。

本人にはそういう自覚が全くないのが彼女が出来ない原因の一つでもある。


「別に女の子紹介するのはいいスけど」

黄瀬はかばんに荷物をつめながら言った。

「本当か!?」

「はぁ、まあ」

目を輝かせる森山に苦笑する黄瀬。

この人ホント、もったいない。


黄瀬はモデルという仕事柄も相まってか、女性との交友関係もなかなか広い。

ただ今は、彼女という特定の人物はいないようだ。今の彼はいわゆる「バスケが恋人」状態である。

「お前は彼女いつでも作れそうだよな」

「そうでもないスよ」

「そこへ行くと笠松は絶対なさそうだな」

「うっせ」

森山の頭をばしっと叩く笠松。

笠松はまともに女子と話せないほどに異性が苦手なのだ。
全国クラスのバスケ部の主将で堂々たる人物なのだが、それも女子の前では通用しないらしい。


森山は頭をさすりながら、黄瀬を見あげた。

「そういや、キセキの世代ってそういうのどうなの?」

バスケが強いのは十分知っているが、そういう一般的な男子学生の彼らは知らない。

こいつがかなりモテるやつだというのは知っているが。


「んー、そうっスねー」

頭を傾ける黄瀬の頭に中学時代のチームメイト5人の顔が浮かぶ。

「まあ、みんな容姿も良かったんで人気はあったっスよ。ただ、一部を除きって感じっスけど」

「一部?」

「いやあ…結構個性的な人たちだったんで。引いちゃう子も結構いたんスよ」

黄瀬の他のキセキの世代は、赤司征十郎、青峰大輝、紫原敦、緑間真太郎、それに黒子テツヤの5人である。

押し並べて容姿は良かった。

ただ、黒子は別枠とするとしても、他4人はあまりに個が強かった。

赤司征十郎は特殊な哲学を持つおかげか、近寄りがたい雰囲気が出ているような人物だった。

青峰大輝は女子とも気軽に付き合えそうな人だったが、桃井さつきがいつも近くにいたため、告白もしないで諦めてしまう人も多かった。

紫原敦はお菓子にしか興味のなさそうな人で、その上、高すぎる身長も彼を威圧的に見せてしまっていた。

そして緑間真太郎。この人は本当に変人だ。大抵の女の子は彼の持つラッキーアイテムを見て去っていく。


「…特に、緑間っちのそういうとことか想像出来ないっス」

本当に思春期真っ只中の男子なのかと疑うほど色恋沙汰に興味がない。


「ああ…秀徳の」

納得したように笠松は呟いた。

話を聞く限り、こだわりの多そうな男だった。確かにこういう人に合う人はなかなかいないように思う。


「ま、とりあえず、森山センパイには今度誰か紹介しますよ」

「お、おう!よろしく頼む!」

森山は笑顔で答えた。そんな彼に、本当に女の子が好きなんだな、と黄瀬は笑った。

「じゃ、お先に失礼するっス」

「おう、お疲れ」

「また明日なー」

「はい。また明日」


紹介するとは言ったけど、どうしようか。

ぼんやり考えて、黄瀬は帰路についた。



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