行く水 | ナノ


いま恋をする‐3

深雪の顔が色を取り戻した。

「…何それ」

眉間にしわが寄っている。不快感も露な彼女に、高尾は相変わらず読めない様子で続けた。

「つまり、君と同じような理由で真ちゃんも彼女を恋人にしたってわけ」

「…」

「こんな浮いた台詞俺も言いたくないんだけどさぁ、あいつの運命の相手とやらは彼女だから。君は眼中にも入ってないと思うけど?」

「…」


深雪はしばしの間黙っていた。高尾の言葉をゆっくりと飲み込むように。


こんだけ言えば、諦めてくれるか?


高尾がそう思ったのも束の間。

深雪は口元を緩めた。

「…そんなの、まだ分からないでしょ」


「…へえ、どうして?」


こう返ってくるか。

高尾は少し興味をそそられた様子で彼女に問うた。


「だって、気持ちなんて簡単に変わるものじゃない」


深雪は校門から離れた。

学校に背を向けて2歩3歩と歩いて立ち止まる。


「真太郎君はあっさり信念を変える人じゃないっていうのは分かってる。だからこうやって視界に入ろうと毎日学校まで来てるの」

高尾は彼女の背中を見つめた。

ここで、嫌な予感を覚える。


こいつやっぱり…。


「だけど、彼女の方は?女の恋なんて短いものじゃない」

「…それは、君にも言えることなんじゃねえの?」

背中に投げかけられた声。


深雪は高尾に背を向けたまま、答える。

「私は今を生きているから」

鞄の取っ手を掴む手に力が入る。


そう、今が良ければそれでいいの。

先のことは誰にも分からないから、誰がどうなろうが知ったこっちゃない。


「どいつもこいつもあっさり諦めちゃって。そのくせいつまで経っても忘れられずにくよくよして」

語気が強められて、嘲りを含めた声に変わる。

「あたしにはそれが信じられない。つくづく、馬鹿じゃないのって思うわ」


「…」


彼女の後ろ姿と言葉に、高尾の顔がかすかに歪む。


「あたしは…来るかどうかも分からない明日に懸けるのなんて、絶対嫌よ」


深雪はくるりと振り返った。

制服のスカートが翻る。長い髪がなびいた。


「彼女がいようが、その子がどんな子だろうが関係ない。必ず掴んでみせる。望む未来を今の努力で」


深雪の目は月明かりに照らされて、強い力を持っていた。



くそ、やっぱ似てるな。緑間と彼女は。

これは…手強いかもしれない。


高尾は思った。





これが10日の出来事。

そして現在11日の朝に至る。



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