行く水 | ナノ


改めてまして‐3

さっきとは対照的な、控えめな声が黄瀬を呼んだ。

「…はい?」

黄瀬がその子へ顔を向けると、女の子は立ちあがった。

「…えっと、その…。覚えてらっしゃらないかと思いますが、火神くんの同級生の柚木紗枝です。10月に一度誠凛高校でお会いしたのですが」


火神。

聞き覚えのありすぎる名前に、笠松の手も止まる。

黄瀬は少し驚いた顔をして、以前誠凛高校に行ったときのことを思い出していた。


確か、偵察に行った時だ。

火神に挨拶でもと思って、校舎前にいたあいつに話しかけた。


そうだ…、そうだ。

確かにあのとき、火神と一緒に女の子がいた。


思い出した。

そうだ、この子たち、誠凛の制服を着ているじゃないか。


「火神っちと一緒にいた子っスか!」

「あ、はい。覚えていてもらえて良かったです」

「あー、ごめんごめん。紗枝ちゃんっていった?」

「はい」

緊張気味ながら、紗枝は黄瀬の顔を見つめる。

「あの、すみませんでした。お食事のところをお邪魔して」

「あー、いやいや。いいっスよ。どうぞゆっくりしてってください」

「ありがとうございます」


紗枝は笠松と黄瀬に一礼して、席に座った。


「…夏子ちゃん、大丈夫?」

「もう死んでもいい…」

「…」

小声で向かいの親友に話しかければ、そんな返事が返って来た。机に頭をつけて、完全に夢の世界へ旅立っている。

紗枝は苦笑を浮かべた。

「あ。そうだ、紗枝ちゃん」

「は、はいっ?」

また隣から声を向けられた紗枝はぱっと顔を動かす。

「火神っちと仲が良いってことは黒子っちとも仲良いんスか?」

「は、はい。良いですよ」

「じゃあ、俺のこともバスケ関係者って知ってたんスか?」

「そう、ですね。黒子くんの元チームメイトの方だというのは知ってました」

黒子と緑間の元チームメイトだと言う話は聞いていた。

そうだ、この人も凄いバスケットボールプレイヤーなんだ。

黄瀬の口からバスケと聞いて改めて紗枝は思った。


「へえ、じゃあ、緑間真太郎って名前聞いたことあるっスか?」

「…え」


聞き覚えのありすぎる名前に今度は紗枝が固まった。

そんな紗枝に黄瀬は首をかしげる。


「やっぱ聞き覚えないっスか?」

「…え、ええっと…」

凄くあります。その言葉しか浮かんでこない。


で、でも、そしたらどういう関係なのか聞かれてしまうよね。

それは少し恥ずかしいというか…照れくさいというか…。

どうしよう。何て返せばいいんだろう。


目を泳がせる紗枝を余所に、黄瀬は続けた。


「なんかそいつの彼女が誠凛にいるらしいんスけどねー。ちょっと一目見てみたいんスよ。黒子っちたちと仲の良い紗枝ちゃんなら知ってるかなーと思ったんスけど」



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