あの日‐2
紗枝は落ち着かない気持ちで先週を過ごした。
すべては今日のためだった。
変じゃ、ないよね。
服だって1時間以上悩んだけれど、いつぞや夏子に太鼓判を押されたものを着た。
ひざ丈のプリーツスカートに、白のブラウス。それに薄手のカーディガンを羽織って。
歩くだろうから、ヒールの低いパンプスを履いている。
これで疲れ対策もばっちりのはずだ。
髪はいつも通りだけど鏡で10分以上掛けてチェックしてきた。
待ち合わせの駅の店のショーウインドウに映る自分。
だい、じょうぶ。うん、大丈夫だよね。
そうは思ったものの、なんだか気になるので前髪にふれて形を整えていた。
「すまないっ…遅くなったのだよ」
「…!」
そのとき、焦りを含ませたよく知る声が聞こえた。
ばっと勢いよく振り返る。
すると、私服姿の彼がいた。
走って来たのだろう。珍しく息を切らしている。
「…う、ううん!大丈夫。そんなに待ってないですから」
「そっ、そうか…」
いかにも初デートです、という雰囲気を醸し出す2人。
男女ともにうつむきがちで目を合わせようとしない。
金曜日のことが頭にちらついているせいもある。
しかしどちらとも、見慣れぬ相手の姿に見とれてしまわぬように必死に隠しているだけであった。
「で…では行こう」
「はい…」
ぎこちない雰囲気のまま、2人の午後の休日は幕を開けた。
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