あとには引かぬ‐3
「…?どうしたんだろう?何か騒がしいな」
少し勉強しては、昨日のことを思い出して悶えて、を繰り返していた紗枝。
10時を回ったころ、外から女の子の声が聞こえてきた。
せっかくだし、気分転換にちょっと外でも出ようか。
そう思った紗枝は、図書室の鍵を持って昇降口に向かった。
紗枝が校舎を出ると、女子の黄色い声が耳に届いた。
しかもその歓声は以前、緑間や高尾が来たときの比ではなかった。
それはもう10人20人の女の子が寄ってたかって叫んでいるような声だ。
前にもこんなことがなかっただろうか。
紗枝は首をかしげた。
『黄瀬くーん!!』
ひときわ高い声が上がった。
「あ」
そうだ、彼だ。
黒子と緑間のチームメイトだったというモデルの黄瀬涼太。
紗枝はモデルとか芸能人とか、そういうものにはとんと疎いものだから、彼の写真はちらりとしか見たことがなかった。
でも確かにすらりとしていて小顔で。
まさに、被写体になるために生まれてきましたといった出で立ちだったような気がする。
紗枝はぼんやり、騒ぎの中心を見やった。
「…わぁ」
遠くからでもわかる。キラキラしたオーラが出ている人。
多くの人の目にさらされ続ける者だけに備わるオーラだ。
ああいう人を世間では、王子様って言うのかな。
確かに、白馬に乗っていても違和感がないかもしれない。金髪だし。
「げ。あいつまた来たのかよ」
紗枝の背後から聞きなれた声がした。
「火神くん。どうしたの部活中じゃなかったっけ?」
「ちょっと校舎に用があってな」
「そっか。あ。ねえ、あの人…」
「あー…あいつか。またすげえ大変なことになってんな」
「あの人やっぱり知り合い?」
「まあな」
遠くにいる彼の姿を見る火神の目には複雑な色が浮かんでいた。
「あ、火神っちー!」
男の声が火神を呼んだ。
紗枝には馴染みのない声だった。
女の子に囲まれていようが背の高い黄瀬から同じく背の高い火神の間には障害物がなかったようだ。
手を挙げて笑う彼の姿が良く見える。
「うわ…マジやめてほしいあの呼び方」
火神は顔をしかめる。
「…かがみっち…」
「おい。お前まで言うなよ」
茫然と呟く紗枝に苦々しいコメントが入る。
そんな火神たちをものともせず、黄瀬は近づいてくる。
「ごめん。ちょっとこいつと話したいから、ちょっと待っててもらっていいスか?」
そばまで来た黄瀬は女の子たちにそう告げた。
女の子たちは残念そうな声を上げたものの、ちりぢりになって体育館の方へ向かった。
いわゆる入り待ちだ。
すごい初めて見た。
紗枝は感心しっぱなしであった。
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