かささぎ‐2
「…え、あ?」
斎藤は後ろからかかった声に言葉をとめた。
一体誰だ。肝心なところだったのに。
しかし今の声、ずいぶん上から聞こえたような。
不満と疑問を抱きつつ斎藤は振り返った。
「…」
「…」
ゆうに2メートルはあろうかという男に無言で見下ろされ…いや、見下されていた。
他校の制服を着ている。学ランだ。目立ちそうな頭をしているが、眼鏡をかけていて知的な印象を受ける。いかにも予習復習当然ですって顔だ。
そしてこれが一番重要なんだが、今ちまたで噂のイケメンというカテゴリーに入る類のやつだ。
フツメンの俺にはない、女を寄せ付けそうな輝きを放っている。
ただ、手に藁人形を持っているのが多少、いや、かなり気になるが。
2人の男は無言で見つめあった。
そして数秒のあと、斎藤がゆっくりと紗枝に顔をむける。
「…え、っと。この人…柚木の知り合い…?」
「え、あ、あの…知り合いと言うか…」
言い淀んだ。
何て言えばいいんだろう。
「知り合い」じゃ距離がありすぎて嫌だ。
かといって、「友だち」というわけでもない。
紗枝から見れば「好きな人」なわけだが、そんな紹介出来るはずもない。
じゃあ何と、何と言えば。
視線を泳がせて言葉を探す紗枝を尻目に、緑間は眼鏡を上げた。
そして口を開く。
「彼女は俺の運命の相手なのだよ」
「…は?」
俺の耳はおかしくなったのか…。
斎藤は絶句している。
知り合いとか、友だちとか、そういうレベルの話じゃなかった。
これ何てプロポーズ?
一方、紗枝は目でも回しそうな勢いで顔を赤くしていた。
目をつぶって顔を斜め後ろに向けている。
デジャヴ。デジャヴだ。以前にもこういうやり取りがあったような気がする。
前は複雑な思いでその言葉を聞いていた。
校門前、他人が見る前で、同じように言ったはずだった。
今回も同じ。
だけど、前と全然違う。
全然違って聞こえる。
私の気持ちが前と違うせいだ。
「…何言ってるか…意味分かんねえんだけど」
「耳が悪いのか?言ったままの意味だ」
斎藤は茫然と前の男を見ていた。
こんなに明らかな敵意を向けられたことはない。
「俺は柚木と待ち合わせをしているのだよ。お前に用はない」
「柚木…」
斎藤は紗枝に目を向けた。願いを込めて。
だけど。
だめだ。
柚木を見た瞬間、だめだと感じたんだ。
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