運命の人 | ナノ


かささぎ‐1

そわそわ。そわそわ。


「え、うっそ。この前好きだって言ってなかったー?」

「ね、今日は帰りにアイス食べてかない?」

「今日英語あたったわ…完全に予習してなかった…」


生徒たちは連れ立って学校を出ていく。楽しい放課後の時間。

放課後は授業時間からは一転。
これから遊びに行く話や、今日あった出来事、楽しそうに生き生きと話をする人たちの声で学校は明るい色に変わる。


そんな中、紗枝は落ち着かない様子で校門前に立っていた。


『午後5時に誠凛高校の校門前』


今日は緑間と約束がある。








電話をした時。

紗枝は緑間に、会いに行ってもいいかと聞いた。

本当はいますぐにでも会いに行きたいくらいだった。だから、その言葉が自然と口をついていた。

が、その言葉に緑間は渋りを見せたのである。

いやそれは、しかし…と言ってなかなか是の返事は帰ってこない。

駄目なのかな…。そう思い、紗枝が少し落ち込んでいると

「俺がそちらまで行く」

との予想外の声が返って来た。

「えっ、ほ、本当に?」

『何か俺が行ってはいけない理由でもあるのか?』

「そうじゃないですけど…」

初めて会いに来てくれた時、彼が気疲れしていたのを思い出した。
彼が校門前に来れば、目立って人目を引かずにはいられないはずだ。それなのに。

『…ならいいだろう。金曜日の部活は休みなのだよ。明日にでも行く。問題は?』

「い、いいえ。問題ありません…」

有無を言わせぬ声に紗枝はおずおずと返答した。




わざわざここまで来ると言ってくれたのはとても嬉しい。

だけど、迷惑ではないのだろうか。そう思わずにはいられない。


そうだ。今日、彼に会ったら、私は彼に…。


「柚木」

「!」

男性の声が紗枝を呼んだ。

うつむかせていた顔を反射的にあげる。


そこにあったのは今頭を占めていた人ではなく、学校で見慣れた顔だった。

「な、なんだ。斎藤くんか…」

「なんだとは何だ。失礼だな」

紗枝がほっとしたように言えば前の男子生徒は、むっと表情を変えた。

この男子生徒、斎藤は、教室の廊下側一番後ろの席に座る紗枝のクラスメイトである。

紗枝が教室に入ればいつも挨拶をしてくれる。会えば世間話をする。

紗枝とは割と仲のよいクラスメイトといった関係である。


家に帰宅しようとしていた彼は校門のそばに立つ紗枝を見かけた。

そこで声をかけたのである。


「ごめん。考え事してたから驚いちゃって」

「俺も驚いたよ。まさかあそこまでのリアクションが返ってくるとは」

苦笑を浮かべる斎藤。

勘違いで驚かせてしまうなんて、なんて失礼なことを。

紗枝は焦り顔で「本当にごめんね」と謝る。

すると斎藤はいつもの表情に戻った。


「ところでさ、こんなところにつっ立ってどうしたんだ?誰か待ってんの?」

「う、うん。ちょっとね」

「へえ。堂島とか?」

「ううん。違う人」

紗枝が待っているのはあの友人じゃないとそう言えば斎藤は表情を変えた。

それから、目を逸らしつつそっと口を開いた。

「…まさか、彼氏、…とか?」

「…え?」

「いやだから…、待ってるのって彼氏?って」

「え…」

彼氏…彼氏?

緑間くんが私の…彼氏?


呆けたまま何も言わない紗枝に斎藤の顔が強張る。

「え…?まさか本当に」

「いっ…いやいやいや!違う、違うよ!」

「あ、ああ…なんだ違うんだ」

「そっ、そうだよ!そう!違うからね!」

必死に否定する紗枝に斎藤は疑問符を浮かべる。

こんなに力強く否定されると思っていなかった。それになんだか顔も赤くなっている気がする。

「柚木、お前」

顔赤いけど待ってるやつってまさかお前の…と、言いかけた。


「待たせたのだよ」




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