近づく‐2
昼休み。
紗枝は携帯を手に空き教室にいた。緑間に連絡をするためだ。
今日はメールじゃない。電話をしよう。
好きだと意識してからは話すのは初めてだ。
だから、さっきの結果発表とは違う意味でかなり緊張している。
だいじょうぶ。わたし、言えるよね。
会いたいです、って。
1回、2回、3回、深呼吸をして。
発信ボタンを押した。
コール音に不安が募る。心臓が高鳴る。
長いコールの後、プツッと音が切れた。
『もしもし』
低い声。電話の声は初めて聞いた。
こんなところも嬉しく感じるなんて、もう、だめだ。
「もっ、もしもし。柚木です」
『…っ、あ、ああ。久しぶりだな』
「うん…本当に。久しぶり…」
彼の方も、人の話声などは聞こえなかった。
電話が来てから移動したんだろうか。
『考査の結果は出たのか?』
「う、うん!問題なかったです」
『そうか。よかったな』
どうしよう。嬉しい。
彼と話せることがとても嬉しい。
こんなに嬉しいことはない。
「…会いたい」
一番言いたかったこと。言いたい。
『…なに?』
紗枝の声が聞き取れなかったのか、緑間は聞き返す。
「…会いたいです。緑間くんに、会いたいです」
『…っ』
「…」
これ以上、伝えられない。
これが私の精一杯の想い。
長い長い10秒の沈黙。
そして、返ってきたのは絞り出すような声。
『…俺も…そう、思うのだよ』
「…う」
『…お、おい。どうかしたのか?』
電話の向こうの焦る声。
私、泣いてる。嬉し泣きだ。
彼も私と同じことを言ってくれるなんて夢みたいで、涙が止まらない。
「…ありがとう」
『…別に、礼を言われるようなことはしていないのだよ』
やっぱり彼は彼だ。緑間真太郎だ。
涙もこぼれるけど、変わらない物言いに笑顔がこぼれた。
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