近づく‐1
「じゃ、考査の結果表を渡すぞー」
来た、と紗枝は息をのんだ。
考査終了から3日後、運命の日だ。
「お前大丈夫か?」
「…う、うん…。どんとこい…」
「どんと来られたら死にそうな声してんだけど」
「だだだだ大丈夫大丈夫。手ごたえは、あったし」
眉をひそめたのもつかの間。
火神ー、と担任に呼ばれて前の席の少年は立って行ってしまった。
「うわ0点あるし…」
帰国子女の火神は学力に定評がないらしい。
しかしそんな火神の声も耳に入らないほど紗枝は緊張していた。
ひとり、またひとりと呼ばれて、
「柚木ー」
とうとう来た。
胸が大きく音を立てる。
これで、決まる。
会いたい。あの人に。
にこにこ笑顔の担任から紗枝は成績表を受け取った。
担任が何か言っていたような。それは紗枝の耳には入らなかった。
おぼつかない、震える足取りで席に着く。
どくん、どくん。
「…っ」
ぎゅっと目をつぶり、それから勢いよく目を開いた。
成績表の、順位は。
火神が後ろを見ると、そこには顔をうつむかせてぷるぷる震える紗枝の姿があった。
「な…」
「な?」
「7位だよー!!」
がっと火神の肩に手が伸びる。
「おい肩掴むなって!揺すんなし!」
嬉しさのあまり火神の声も届いていない。
ゆさゆさと紗枝は火神の肩を揺すり続けた。
「火神くんと柚木さんってやっぱり兄妹みたいですよね」
「そうだよねぇ。私てっきりあのふたりが出来るのかと思ってたもん。火神には絶対あげないけど」
「予想は外れましたか」
「…そうね」
あの子を変えた人が紗枝の…。
夏子の考えが分かっているのか、いないのか。黒子は、
「心配しなくても大丈夫ですよ。信用出来る人ですから」
と言った。
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