天の川‐2
「しかしそもそもそれはただの神話なのだよ。そんな感傷的になってもしかたあるまい」
「もう、風情がないですね」
「そんなことより俺は、天の川銀河の中心の様子や質量はどこからきているのかなど、そちらの方が気になるのだよ」
「ま、まあ、それも学術的にはロマンなんでしょうけど…」
緑間くんって本当に理知的な性格してるんだな。
確かに、恋愛ものの多い神話について熱心に語る緑間くんて想像できないや。
紗枝の顔に笑みが零れる。
「そっちも気になりますけど。私は、地上から目に見える部分で思いを馳せてもいいと思います。神話って大事じゃないですか。人間の知恵がたくさん詰まっていて」
「そうは言うがな…」
納得行かない様子の緑間。
ここでは男女の物の見方の違いも現れているのかもしれない。
「…とにもかくにも、都市からじゃ見えませんね。明るすぎて」
「…そうだな」
空を見上げる。
秋の空、天の川は淡くて見えそうもない。
不思議だ。
2週間前は知りもしない人同士だったのに。
今では並んで、話をして、空を見上げている。
「じゃあ、次の質問していいですか?」
「…別に、構わない」
聞いてみようか。
でもいたらどうしよう。
いたら…、私はどうすればいいんだろう。
紗枝はいろんな事を考えたが、やはり1番と言っていいほど気になることなので聞いてみることとした。
「…緑間くんって」
シェイクを握る手に力が入る。
「恋人とか、いるんですか…?」
「…なっ」
驚き、紗枝を見ればそっと窺うように目を向けていた。
「何をいきなり…!」
言いながら緑間は顔をそむけた。
こいつはたまに突飛な事を言う上に、理解できない感情を抱かせる表情を向けてくる。
緑間はそのたびに焦ってしまう。
なんだか情けない。どうなってこうなるのか説明がつかない。
「きょ、興味ですよ」
「お、俺はバスケ一筋なのだよ。そんな浮ついたことをやっている暇などないに決まっている」
ぺらぺらと一気にまくしたてる緑間の手のボールがぐにゃりと変形する。
「…そうなんですか」
ほっとしたような。ちょっと苦しいような。
恋人はいなかった。
そして今も作る気はないってことだよね。
なんで、私、残念がってるんだろう。
よく分からない感情に紗枝はじっと考え込んでしまった。
その間、緑間は返答に困った末、同じことを口にした。
「お、お前の…」
「え?」
「お前の方こそどうなのだよ!?」
緑間は力強い口調で問う。やけになっているともいうが。顔は明後日の方を向いていた。
「あ、その。私もいませんよ。いたこともありません」
「そう…なのか」
しかし、火神とはかなり仲が良いようだが、それはどうなんだ?
ほっとする気持ちが湧いて、その次には、こんな言葉が浮かんできたものだから。
緑間の焦りに拍車がかかる。
「俺は何を…」
ぶつぶつ言いながら手を額にあてて項垂れる緑間。
なんだか知らないが、感情のコントロールが出来ない。
突然湧きでで、思う存分暴れて。こいつは俺をどうしたいのだ。
「あの、緑間くん…」
どうしたんですか?
心配そうな表情を浮かべた紗枝の手が緑間の腕にそっとふれた。
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