雑踏の中、見慣れた横顔を見た。

「何かうれしそうな顔してるわね」

声を掛けると驚いたらしく肩が上下に揺れる。しかし、それは振り返ると明るい満面の笑顔に変わった。くるくると表情を変える彼女は見ていて飽きないし、何だか放っておけない。一緒に居るとなんとなく心が温かくなる。だから損得勘定無しでも構いたくなるのだ。(もちろんあればあったことに越したことはないが)

「あ、リーズ姉さん!」

後ろからでは見えなかったが、振り返った彼女は大きな紙袋を抱えていた。

「何、その大荷物?いいもの?」
「今日の夕御飯の材料なの。ちょっと奮発しちゃった!」

ふふっ、と嬉しそうに笑う彼女は随分浮かれているようにみえた。

「…でもこれ、2人で食べるにはちょっと多すぎない?」
「あ、今日はハンスが来るんだ」
「へぇ…」

からかい甲斐のある、あの子か。それにしたって多すぎるんじゃないかというツッコミはしないでおこう、本人気付いてないみたいだし。

「『キミがしっかり勉強してるか確認に行く』〜なんてヒドいこと言うんだもん!ペペとタッグでも組まれたときはもう最悪!だから料理を作って誤魔化そうかと」
「…多分誤魔化されないと思うけどね」

それにしても、言葉とは裏腹に今日のアニーは生き生きしている。普段なら料理を作るのも面倒臭がり、結局泣きながら課題をこなすことになるだろうに。
何でだろうと考えたがそのまま話を続けていたアニーの言葉に納得した。

「最近会わなかったから、何も言われなくてラッキーって思ってたのに!久し振りに会った第一声が『さぼっていなかったか?』だよっ!?」

わざわざハンスの声まで真似て(でも似てない)、アニーは力説している。
そういえば、実行委員は間近に迫る大会の準備で忙しいと街中で聞いた。私の担当も暫く姿をみせていない。
悪態ばっかりついているが、要は会えることが嬉しいんだろう。浮かれて大量のご馳走を作ってしまう程度には。
これで無自覚なのだからタチが悪い。

(これじゃハンスも苦労するわぁ〜)

他人事のように考える。もっとも、こういうのは他人事だからこそ楽しいのだ。

(今度ハンスに会ったら、このネタでからかってみよっと♪)

しかし、この子の目標の『王子様と結婚して玉の輿』はどうするのだろう。そう思ったが、ハンスとだって十分玉の輿だということに気が付き苦笑した。






発売前に書いた文を手直ししたものその2。










「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -