開発中止ED後


セラ島のリゾート開発が中止されてしばらくたった。
僕は王宮に戻って執政官を続けていてセラ島に渡る前の生活に戻っていた。
アニーは故郷に戻って、両親と一緒に錬金術の店と修行とを続けているらしい。
ベートゲア師が嬉々として話しているのを耳にした。
セラ島のみんなと連絡を取っているのかどうか知らないが僕とは全く連絡を取っていなかった。
担当官だったから故郷の場所も知っている。手紙も出せるし会いにも行ける。
だが、会いに行く理由が見つけられなくて行けないままだった。手紙も同様で出せていない。
アニーも王宮に来ればベートゲア師だけでなく、ジェリアやダニエルやメルディアに会えると知っているはずなのに来ない。
以前ダニエルがアニーは元気か聞いてきた事があった。
連絡を取っていない事を伝えるとひどく驚かれた。
当たり前のように連絡していると思われていたようだ。
ジェリアにも同じことを言われた。
つまり二人ともアニーと連絡を取っていないと言う事だ。
一人で故郷に戻って誰とも連絡を取らずにいて、今頃どうしているんだろうか。


セラ島のリゾート開発の中止を伝えた時、彼女は泣き出しそうな顔をしていた。
その後誰にも何も言わずに一人で島を出て行ったらしい。みんなが残念がっていたのを覚えている。
フィズが泣き出してビュウやリーズさんに慰められていた。
あんなにかわいがっていたフィズにさえ何も言わずに行ってしまったのはどうしてだったんだろう。
聞いてみたいと思ってはいたがいまさら手紙を出しづらくてそのままになっていた。


ある日僕はジョエル王子に呼び出された。
じきじきに個人が呼び出される事などめったにないため緊張していると、王子は一通の手紙を出してきた。
なんだか苦笑しながら渡される。
何事かと手紙を見るとそれはアニー宛の手紙だった。
「僕宛の手紙の中に入っていたんだ。差出人を見てごらん」
リゼット・ランデル………リーズさんだった。
「同封されてた手紙に『ハンスに届けさせる事』って書いてあってね。お願いできるかな」
「何故、僕なんでしょうか」
「さぁ、リーズの考える事はわからないよ」
何か知っているようなニコニコ笑いでとぼけられた。
もしかしたらリーズさんが手紙に何か書いていたのかもしれない。
王子の頼みを断れるはずもなく僕はアニーを尋ねる事となった。
理由が出来たのが少しだけうれしかった。


アニーの故郷は王宮のある街から少し離れたところにある。
訪れると家はすぐにわかった。王宮付錬金術師ベートゲア師の家系という事で有名だったからだ。
「初めまして、ハンス・アーレンスと申します。アニーさんへ手紙を預かってきました」
そう告げるとすぐに中へと案内された。
聞けばアニーはセラ島から戻ってずっと落ち込んでいるらしい。
知り合いに会えば元気になるかもしれないからと会うように頼まれた。
どうやって会わせてもらおうかと考えていたからすぐに頷いて了承した。


コンコン。
アニーの部屋のドアをノックする。
なんだかセラ島にいたころみたいだな、と思いながらそのままドアを開けた。
「失礼する」
声をかけると、はっと振り返られた。
………目が赤い。顔色が悪い。頬は涙で濡れている。泣いていたようだった。
泣き顔は初めて見た。セラ島では困った顔はよく見ていたが泣いた事はなかった。
驚いて何も言えずに居るとアニーはくしゃりと顔をゆがめて泣き笑いのような顔になった。
「ハンス、久し振りだね」
そう言うと俯いて何かに耐えるように目を閉じると黙り込んでしまう。
何が何だかよくわからなくてこちらも黙ったままで居たらぽつりと呟かれた。
「あたしを、怒りに来たんでしょう?」
ますますわからない。
「………………何故、そんなことを思うんだ」
ようやく声を出すと、アニーは顔を上げて泣きながら話し始めた。
「だって、セラ島のリゾート開発が、中止になっちゃったのは、あたしのせいだもの」
「君の?そんなことはない。あれは実行委員が間違えたからで、アニーのせいじゃない」
「あ、あたしがもっとがんばって、ちゃんと宝石を作れていたら、中止にならなかったかもしれないのに」
「だからそうじゃないと…」
「みんなが助けてくれて、任せてくれたのに、それに応えられなくて、だめにして、あたしは、あたしは……」
「………もしかして、みんなに黙って島を出たのはそのせいなのか?」
「だって、みんなに合わせる顔なんかないよ……」
ぽろぽろと泣きながら自分を責めるのを見ていられなくて引き寄せるともっと泣かれてしまった。
あやすように背をぽんぽんと叩くと嗚咽がもっとひどくなる。
戻ってからずっとこうして自分を責め続けて、泣いていたんだろうか。
理由がどうこう考えて来なかった事をひどく後悔した。
「アニーのせいじゃない。そんな風に自分を責めないでくれ」
「………でも」
「元はと言えば実行委員の賞金の渡し間違いなんだ。責められるべきなのは僕のほうだ」
「…ハンスのせいじゃないよ」
「それに、僕たちは対抗策を何も考え付かなかった。君は実行可能な対抗策を考えてくれたじゃないか」
「実行できなかったのに……」
「それでもだ。君はその時の自分に出来る限りの事をしてくれただろう。だから、いいんだ」
「………」
「だから、そんなに泣かないでくれ」
「………うん」
まだちゃんと納得はしていないようだったが何とか泣き止んでくれた。
僕から離れてぐしぐしと顔をこすって涙を止めようとするのを見て心底ほっとする。
泣かれてしまったら何をどうしたらいいのかわからなくなってしまう。
安心したらここへ来た理由を思い出した。
「そうだ、君への手紙を預かってきたんだった」
手紙を出すとアニーはまた泣き出しそうな顔をしてしまう。
誰からかも伝えていないのにまた怒られると思っているようだ。
「あの、ハンス、先に読んでくれない?」
「人の手紙を読めというのか?」
「怒られるんだったら心の準備がしたいよ………」
涙がこぼれそうな様子に内心うろたえながら一つため息を付いて頷いた。


『親愛なるアニーへ

 久し振り。元気にしてる?なかなか手紙をくれないからあたしから先に出しちゃうね。
 王宮経由でジョエル王子に頼んだからきっと今ハンスが隣に居ると思うけど、セラ島での生活を少しは思い出してもらえたかな。
 アニーがみんなに何も言わずに出て行った理由をあたしはなんとなくだけど知ってるつもり。
 自分のせいだと思っちゃったんでしょう。
 そんなことはないからね。アニーのせいじゃないの。
 どうしても開発中止を止めたければあたしが宝石を作ったってよかったの。
 でもあたしはアニーに任せた。
 レベルの問題もあることはわかっていたけど、この国の人間じゃないあたしがそれをするのはおかしいと思ったから。
 セラ島を大事に思っててがんばっているアニーなら任せてもいいと思ったの。
 結果として開発は中止になっちゃったけどそれでも間違ってたとは思わないよ。
 それにね、一度中止になったくらいであきらめなくていいと思うの。
 施設は残っているんだし一度この島に来てくれた人たちがここを気に入ってくれたらすぐに寂れたりはしないだろうし。
 例の宝石の材料だってまだあるんだからアニーが錬金術師として腕を上げて作りに来てくれるってのもありだと思う。
 そうしたら再開発って道も開けるかもしれないじゃない。
 お願いだから、最後が悲しい事になったからってすべてを否定しないで。
 それまでの生活が楽しかったことは忘れないで。みんなで笑っていたことを思い出して。
 すぐには無理かもしれないけど気持ちが落ち着いたら連絡してね。
 今あたしは自分の国とここを行ったりきたりしているから待たせちゃったらゴメンね。
 みんなも手紙を待っているからよかったら書いてやってね。
 誰も怒ったりはしてないから安心して。きっと喜ぶよ。
 そして元気になったらセラ島へも来てね。
 大丈夫。きっとまた一緒に笑えるから。
 
 リーズより』


読み終えてそのまま手紙を渡すとアニーはこわごわと読み始めた。
途中からまたぽろぽろと涙を流し始める。
でもそれは辛そうな涙ではなくてうれし泣きに近いような涙に思えたからそのままにしていた。
読み終える時には涙はもう止まっていて顔を上げて笑ってくれた。
「………ありがとうハンス。あたし、またがんばれそうだよ」
「……笑ったな」
「え?」
「ずっと泣き顔しか見ていなかったから」
「あ…そうか。ごめんね」
「いや、僕こそずっと連絡もしなくて悪かった」
「ううん、それはあたしもだもん」
思わず顔を見合わせて笑ってしまう。まるで以前に戻ったようだった。
「また、来てもいいか?」
「うん。あたしも王宮に顔を出すよ。おじいちゃんもジェリアもダニエルもメルディアも…ハンスもいるし」
「そうだな。みんな喜ぶだろう」
そう言うとまたうれしそうに笑う。
「………ねぇハンス」
「なんだ?」
「いつか、セラ島に行く時には、一緒に行こうよ」
………………。
意味をわかっては………いないな。まぁ、いいか。
「あぁ…行こうな。いつか、必ず」
「うん」








 *


「そういえばどうして僕をアニーのところへ行かせたんですか?」
「んー、ハンスだったらアニーを慰めてくれると思ったのもあるけど一番は協力ね」
「協力?何のですか」
「寂しい時にそばに居てくれた人に恋する確率は普段よりずっと高いのよ」
「こ、恋?」
「そー、ペペもおじーちゃんも居ないんだからチャンスじゃない。こわーい保護者が居ないのよ?」
「う………」
「ま、後はハンスしだいね」


















初の頂き物です!嬉しい…!
『柿トロさんの開発中止ED後が見たいです!』とおねだりしたら書いて下さりました!どうしよう、アニーが可愛すぎる…!

…一ヶ月前に頂いたのに、載せるのが遅くなってすみません!















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