本土に戻ってから数年が経った。
アニーは両親の店の手伝いの傍ら、錬金術の勉強を続けている。
セラ島に渡る前の生活とは一転、口では「メンドくさい」と言いつつも楽しそうに働くアニーを見て、両親はほっと胸を撫で下ろした。今では、彼女一人に店を任せる日も少なくない。
買い出し、採取、依頼、調合。今日も彼女は底抜けに明るい笑顔で、この町に暮らしている。
「ふぅ…」
部屋に戻るなり、灯りも点けずにベットに突っ伏す。一日の仕事にはかなりの体力と精神力が費やされる。
「あたし、頑張ってるかなー…」
あれから、幾度となく呟いた台詞。
頑張っていると、思う。だけど、こうやって確認するのが癖になってしまった。
毎日はとても充実している。セラ島へ渡る前が嘘のように。
依頼をこなすのはやりがいがあるし、仲の良い顔馴染みのお客さんも増えた。日々新たな発見があって、息をつく間もないほど。
でも時々ふとした瞬間、例えばこんな静かな夜には思い出すのだ。毎日賑やかだった、キラキラした3年の日々を。
ごろりと体勢を変えて仰向けになると、何もない天井に視界いっぱいの星が見えた気がした。
ふと、また会うこともあるかもしれないと言った青年の姿が脳裏に浮かんだ。
『結局ハンスと会うこともなかったなぁ』
胸の奥がきゅっと痛むのは、セラ島での思い出が何物にも代えがたいという証なのだろうか。
少し違うような気がしたけれど、これ以上考えてはいけないような気がして、首を振った。いつの間にか胸の上で握り締めていた手を解くと、いくらか気分が楽になった。
今ごろは何をしてるのだろうと思いを馳せてみる。
『ハンスのことだから、執政官としての責務を全うしてるんだろうなぁ』
『もしかしたら、結婚して娘でもできてるかもしれない。…想像つかないけど』
とりとめのない想像は浮かんでは消えていくが、胸に残った寂しさのようなものは増すばかりだったので、アニーはたまらず夜空を見上げた。
窓から眺めたそれは趣が大分異なるものの、記憶の中の風景と重なった。
『ねぇ、ハンス。私今幸せだよ』
きっかけは全てセラ島が与えてくれた。今、あの島がどうなっているか見当もつかないけれど。
『ハンスは今、幸せ?』
きっとここから遠くない場所にいるであろう、それでもきっともう会うことのない相手に向かって話しかける。
返事はもちろん返ってこない。だけど妙に心がざわざわして、言わずにいられない。
そして。
ペペ、ジェリア、キルベルト、フィズ、ビュウ、カイル、リーズ、そしてセラ島で出会った沢山の人達の顔が順々に浮かんでくる。彼らは今、何処に居て何を思っているのだろう。
『今、同じ空を見上げているといいな』
それはセラ島にも、誰の頭上にも広がる、満天の星空。
『そう、思わない?』
繋がっているものがあれば、きっといつまでも仲間だから。
一番書きたかった設定なのに…!文章って難しい。もしかしたら書き直すかもです。