今、俺にはどうしても振り向かせたいやつがいる。俺の幼なじみ。名前だ。あいつは何も考えてないのか、ただ鈍いのか。未だに俺の気持ちになんて気付かない。ま、まあそんなとこも可愛いんだけどね、


「名前!」
『なに、リョーマ』
「今日一緒に帰らない?」
『いいよー!いつものことじゃん!』


放課後になり、今から部活へ向かおうとする名前を呼び止める。笑顔で振り返った名前を、誘う。そのままの笑顔で頷いた彼女にほっと安堵のため息をもらした。
そう、俺と名前は毎日一緒に帰っている。なのに毎日誘っているのは、俺の気持ちに気付いてくれるんじゃないかという、浅はかな期待からだ。
だが、全然気付かない。まあ、一緒に帰るのを拒否されてないだけいいか。


「まあ、そうだけど。じゃ、校門のとこ待ち合わせでいい?」
『いいよ〜〜!じゃ、また帰りね〜!』


そう言って俺たちはわかれた。
ふう、これで今日も名前と帰れる。俺の日課であり、重要なミッションなのだ。


***


帰り道。
2人で会話をしながら家に向かう。会話の内容は本当に他愛ないもので。俺と名前の関係をあらわしているようで、なんだか嫌だった。そんな気分を払拭するように勇気を振り絞って一歩踏み出す。


「ねぇ名前、今度の日曜練習ないんだ。2人で遊びに行かない?」
『え、まじ?行く行く』


断られなかったのは嬉しいけど、あまりに普通で、本当に何とも思われていないようで。なんだか悲しい。でもそんなことを言ってられない。今度の日曜は2人きり、だ。


***


日曜日。

幼なじみの俺らに、待ち合わせなんてものはない。ピーンポーン 緊張する手でインターホンを鳴らす。《はぁーい》と今日も元気よく名前が出てくる。


「おはよ。わざわざ迎えに来てあげたんだから、早く行くよ。」
『むぅ、迎えに来てなんて頼んでないもん。でも、早く行こっか!』


わざと嫌味を言って、名前を急かしたものの、名前からの反撃を喰らう。彼女の一挙一動に俺の心ははねあがるのだ。
今日の行き先は遊園地。


『リョーマっ、次アレ乗ろっ!』
「んじゃ、早く乗ろ。」


遊園地に来ると、やたらテンションの上がる名前は、まるで小さい子供のようだ。
でも、そこも可愛い、なんて思ってしまう俺は、重症なんだろうか?
その後も2人、子供の頃に戻ったように遊んだ。いつになっても、俺らの関係は変わらない。相変わらず子供の頃と同じ。いい加減、それは嫌だ。


2人で遊園地に行ってから数日。やっぱり俺らの関係は変わらない。
俺は廊下の角まで来て聞こえた聞き馴染みのある声に足を止めた。


《あはは、勇馬何ばかなこと言ってんの!!!》
《ばかなって…名前俺に失礼すぎだろ;》
《えっ、勇馬でも失礼なんて思うことあるんだ!?》
《おい名前ー》


あれは…名前と同じクラスの男子?男が名前の肩を押すように叩く。名前もその手をたたいた。何であんな親しそうなわけ?なんかイライラする。俺に気付かない名前。男の方は気付いたようで、目があった。見下すように鼻で笑われた気がした。くそっ、ムカつく。


***


帰り道。今日もいつも通り、2人で帰る。いつもなら機嫌のいい俺だけど、今日は凄く機嫌が悪い。


『どうかしたの?』
「え?」
『いや、なんかいつもと違うからさ。』
「………別に。」


いきなり言われてとまどう俺だったが、名前の言葉にさらにいらっとする。それがわかってなんで俺の気持ちがわかんないわけ!!??不自然とわかってはいるが、名前から顔をそらす。


『別にって。ほんとどーしたの?なんかあったんでしょ?』
「……んで……」
『え?』
「………んでそこまでわかってて、なんで俺の気持ちに気付けないわけ!?」


心配そうに近寄ってくる、なおも食い下がってくる彼女にいら立ちが募り、つい怒鳴ってしまった。


『は?え……?』


とまどう名前にいら立ちが抑えきれず、ドンッと壁の方に強く押してしまった。


『っったぁぁ……な、何すんのよ!?痛いじゃない!!』


壁に押さえつけられ、身動きが取れない名前は、顔をゆがめリョーマに対して怒鳴った。だが、リョーマは聞いていない。だんだんと距離が近づく。痛みに腹を立てていた名前であったが、リョーマのその真剣な顔に痛みも怒りもすっかり忘れ、ぼんやりと顔を見つめる。


「名前…」


何が起こったかわからないままだったが、名前は自分の唇に温もりを感じた。


「俺、」


唇が触れ合いそうな程の近さのまま、じっと目を見据えてリョーマが話しだす。


「俺、名前が好き」
『え……』
「好きなんだ…」


リョーマはそのまま名前の目を真っ直ぐ見すえる。名前の顔はりんごのように真っ赤で。


『リョーマ…わ、私も、私もリョーマのこと…好き、だよっ』


今、俺のこと好きって言った?ふ、と我に返る。顔に熱が集まってくる。顔を手で隠すように覆う。


「うそ、」
『嘘じゃないよ。リョーマこそ、うそ?』
「うそなわけ、ないじゃん。ほんと、なの…」


名前を見ると、顔を真っ赤にしながらにっこりと笑っているのが目に入った。その様子にどうしようもなく愛おしさがこみあげてくる。そ、と近寄り、抱きしめる。


「もう、離さないからね」


頭をぐいと引き寄せると、二人は再度口づけを交わした。今度の口づけは、幸せな色を感じた。
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