勇気を出して


きっかけをつくれるとしたら、多分この日。

「で、できた・・・!」


バレンタイン前日。
私は一人、自宅のキッチンで息を吐いた。
時刻は23時30分。
料理の本片手に奮闘すること数時間。やっとできあがったチョコレートはなかなかの出来映えだ。


「あとはラッピングして・・・これも・・・よし、完成!」


包装もしてあとは明日を待つのみ。
片付けをすませ、自分の部屋に戻ったところで、つい独り言がもれた。


「まさか、私がバレンタインのチョコレートをつくるとは・・・・・。しかも男子に。」


言って、つい顔が赤くなる。
そう、今年のバレンタイン。私は本命チョコを渡す決意をしたのだ。


「有利・・・どんな顔するんだろ」


本命チョコの相手。幼なじみの有利。
小さい頃から一緒で、学校も小中高と通学まで一緒にしてきた。正義感が人一倍強くて、気が小さいトコがあるくせに自分の信念だけは決して曲げない頑固なところもあって。
いつからだろうか。彼を「幼なじみ」ではなく、一人の「異性」として意識するようになったのは。気が付いたらいつの間にか、と言うのが一番合っているかもしれない。
しかし。
ついため息がもれる。

「向こうが全くその気ナシってのが悲しいのよね・・・」


だから。
彼女とまでは言わない。ただ、異性として見てもらえればそれで十分だから。
きっとこのままだとずっと変わらないであろう「幼なじみ」と言う関係を少しでも変えるために、バレンタインというイベントを利用することにしたのだ。
そして。
いよいよバレンタイン当日の放課後。


「悪い、名前!お待たせ!!」

放課後、校門前で待つ私の所へ有利が急いでやってきた。

「私も今来たばっかだし、平気だよ?」
「ホント!?よかった、先生の話、長くてさ。」
「それでホームルーム、時間かかってたのね?」


二人で他愛の無い会話をしながら歩きだす。いつもと何ら変わることは無い。
しかしそれは表面だけの話であって、内心はカバンの中に入っているもののことで頭がいっぱいだったりして。

いつも通りの二人の帰り道。いつも通りすぎてきっかけがなかなかつかめない。こんなに緊張する帰り道と言うのも初めてかもしれない。
と、

「そーいえば、今日ってバレンタインなんだよなー」

何気なく有利がその単語を口にする。


「はひぃ!?へ?え?あ、う、うん。そうだねー」


考えていたことを急に相手に言われて思わず奇声を発してしまう。


「ど、どした?」

そんな私を有利も驚いてみる。


「う、ううん。何でもない、何でもない・・・ゆ、有利は誰かからもらったりしたの?」


ちょっと気になるけれど・・・よくよく考えれば私にとっても有利にとっても何とも微妙な質問。


「え、俺!?俺は・・・・もらえるわけないだろ」


最後のあたりは半分泣き真似入りの有利。


「あー、そ、そうだよねー・・・」


そんな有利には悪いが、少し安心してしまう。私なんかより他の女子の方が分が良いのは確かだから。


「いいよなー、手作りチョコ。男の夢だよなー。あー、一度で良いからもらってみたい!」


隣で独り言のように語り始める。
隣でこうやって語られちゃうあたり私にもらえるかもしれない、とか、もらいたい、という考えは無いに等しいのだろう。確かに十六年間一緒にいながら今まで一回もあげたことが無かったから、当然と言えば当然なんだけど。
でも、今年は違うから。
今まで友達にすらあげたことの無い私にとって、身内以外にあげるなんて、初めてのこと。それでもその「初めて」は、つまった意味もあげる相手もとても大切。
もしかしたら、今の関係を変えようなんて贅沢なのかもしれない。それでも、このままは苦しいから。
覚悟を決めて口を開いた。

「・・・ねえ、有利?」
「ん?どした名前?」


向けられた視線に、心臓が一度大きく跳ねる。今まで有利相手に緊張したことなどなかったのに。カバンの中に入っているものを持つ手が震えていることに気がついた。
一瞬止めようかと思う。このままでも良いじゃないかと。しかし、それではこの先何も変わらない。そう思って、真っすぐ有利を見て話し始めた。


「・・・有利が私のこと、幼なじみとしか思っていないのは知ってる。だから、付き合ってほしいとは言わない。でも・・・」
「名前?」
「・・・私、有利のことが好き。幼なじみじゃなくて、その・・・異性として。だからこれ・・・受け取ってもらえる?」


そう言ってカバンの中からチョコを取出し、差し出せば、有利も少しためらいながらも手を出して受け取ってくれた。
有利の顔をうかがってみれば、夕日のせいもあるのだろうが、赤くなっているように見えなくもない。


「あの、さ。」

有利がゆっくり口を開く。
有利の言葉に再び心臓が大きく鳴った。何と言われるか、予想はある程度ついてはいるけれど。それでも緊張はする。ほんの少しだけど期待してないと言えば嘘になるから。


「俺、名前のことはずっと大事な幼なじみだと思ってる。」


・・・やっぱり。予想していたとおりだった。それでもがっかりする自分がどこかにいる。
ところが。


「でもそれ以上に、その、何つーか・・・俺も好きなんだ、名前のことが。その・・・女の子として。」
「うそ・・・」

信じられない。
有利は、というと、やっぱり頬は赤くて。でも真剣な眼差しで私を見てる。


「嘘じゃない。俺と・・・付き合ってください」


無意識に頬がゆるんできた。


「・・・はい!!」


嬉しくて、思いきり有利に抱きつく。


「わっ!危ね」


少しバランスを崩しながらも有利はちゃんと受け止めてくれた。有利の温もりが伝わってきてそれがすごく心地良い。

「名前?」
「ん?」
「ありがとな、チョコ。」
「どういたしまして!」


勇気を出せば、想いはきっと伝わる。
そうでしょ?
だってそれが、バレンタインデーの奇跡だから。

戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -