Princess of tennis | ナノ
トリオ  [ 8/8 ]


07

「んで、何」
「一緒にテニスコート行こうぜ!」
「別にいいけど」


堀尾に対して、辛辣な越前。ストレートなやり取りは、仲の良い証拠というやつなのだろうか。


『みんなテニスコートの場所知ってんの?もしかして内部生?』
「一応ね。こいつと一緒なんて思いたくないけど。」
『へー』


越前の答えに堀尾たちをしげしげと眺める。美形に見つめられて恥ずかしくなったのか、3人はそろって顔を赤らめた。


「お前さ、すっげえ顔綺麗だよなー。]」
『…そうかな?』
「そうだよっ!その上帰国子女で頭が良い。これでスポーツできたら完璧だよな、女がほっとかなそー。まあそれ言ったら越前もだよなー。」
『「……。」』
「…よーし!俺も入れて、3人でユニット組もうぜ!」


堀尾のどや顔での発言である。その発言を聞き、カツオとカチローは苦笑いを浮かべ、残りの2人はフッと鼻で笑った。


「却下に決まってるでしょ。俺たちと一緒にしないでくんない。」
「なんでだよー。良い案だと思うんだけどなー」



それからずっと、堀尾は1人で話し続けている。ペラペラ、ペラペラとよく回る口である。大半は自分の知識をひけらかす自慢モノの話だ。カツオとカチローは苦笑いしながらも相槌を打ち続ける。名前と越前はすっかり飽きた様子で聞き流していた。その時不意に、「俺テニス歴5年だし」という偉そうな物言いが聞こえてきた。


「ま、まあまあ。僕らはもうそれ知ってるよ?」
「そうそう、僕らだってテニス歴3年だしね。」


またそれか。今度はカツオやカチローも飽き飽きとした様子で言う。
それに対して堀尾は、「何言ってんだ!2年の違いはでかいんだぞ!もちろん5年の差はもっとだかんな!」と、名前の方を見ながら言った。ふふん、とまたもどや顔をされた名前は、笑いをこらえながら『あれなに?』と越前に聞いた。正直、顔はこらえきれていない。今にも笑い出しそうだ。そんな二人を見、あきれた様子で「また言ってる」とつぶやいた。


「なあ苗字!5年の差はでかいからな、わからないことあったら、このテニス歴5年の俺に聞けよ!」


いったいどうしたら良いんだろうか。16年中の5年って、そんな自慢できることなのだろうか?まあ確かに長いといえば長いのか?


『ホリオクンッテスゴインダネー、アリガトー』


ふい、と目をそむけながら言う。明らかに棒読みである。プッ、と小さく笑う越前を目の端に捕えたが、あえての無視である。2人とも、失礼極まりない。態度を正す気がないあたりが余計に性質が悪い。だが、そんなことにも気づかない堀尾は尚も口を開く。


「そーいやさあ、俺、苗字のこと名前で呼んでも良いか?」


越前には昔断られたため、聞かない。堀尾は期待した様子で返事を待っているようだ。良いわけないだろう。


「却下。」
「は、なんで越前が答えるんだよお!」
「なんでも。」
『リョーマ、いじめたらだめだろ』
「名前…!」



堀尾に対して辛辣な態度をとり続ける越前は、もちろんのこと即答で却下する。越前のこと言ってるのではないのに却下された堀尾は、越前に対して文句を言った。今にもつかみかかりそうな勢いである。見かねた名前は、少し越前をいさめる。あまりにも堀尾がかわいそうだったのだ。しかし、その発言により、味方をしてくれたと勘違いした堀尾は、喜びに顔を明るくする。もちろん、名前から名前呼びはだめと言われていないので、許可されたものだと思い、早速名前を呼ぶ。
残念な堀尾のことだ、この後何が起こるかはすぐわかるだろう。


『あ、名前は却下』
「なんでだよ!?」


あれは許可するってことじゃなかったのか!?と半泣きになりながら詰め寄る。『ふふっ』「まだまだだね」と流され、それからテニスコートに着くまでずっと、2人に遊ばれ続ける堀尾であった。



ようやくテニスコートが見えてきた。すでにジャージに着替えてコートに出ている人もいる。活気のある、良い雰囲気の部活だ。


『あ、俺竜崎せんせーんとこ行ってくる』
「あ、うん」
「気を付けてね!」
「行ってらっしゃい」
「またあとでなー」
『おうっ!』


自分の言葉にみんなが暖かい言葉をかけてくれることが嬉しくて、にっこりと笑う。その愛らしい笑顔に、一同は心臓を鳴らす。小さくなっていく後ろ姿を眺めながら、小さくつぶやいた。


「なあ越前…あいつ、ナニモノ!?」
「ヒト」
「いや、それはわかってるっつーの!」
「じゃあ何が聞きたいわけ?」
「越前と気が合う見たいだし無愛想なやつかと思ったんだけどさー、そうでもないだろー?越前が名前で呼び捨てさせてるし、してるしびっくりしたぜほんと。かっこいいし、頭いいし、なのにそれを鼻にかけてないし――――…」


そんなことを、延々と聞かされうんざりとした越前は、はあとため息を吐くと、堀尾の話を無視して、先へと歩を進めた。



ところかわって、名前は竜崎先生の元を訪れていた。


『やっほ、スミレちゃん。久しぶりぃー。何時の間に高校の先生になったの』


久方ぶりの再会に思わず素が出てしまう。にやける顔がおさえられない。


「おお名前かい、久しぶりだねぇ。色々と評価されてね、去年から高校に異動したのさ。」
『なるほど!あ、それで、わ…俺は“コーチ”ですよね?』
「そのことなんだが…できれば選手としてもやってほしい。もちろん、公式戦の出場には難しいだろうが、たとえ練習試合だけでも、お前さんが選手として活躍することで、部員たちの士気があがるだろうと考えてるんだよ。」
『あー、なるほど。それは俺も嬉しいけど…あ、じゃあ仮入部期間が終わってからコーチとして正体を明かすってことでどう?』
「そうだねぇ、良いんじゃないかい。こっちとしてはお前さんが来てくれただけでうれしいからね」


そこまで話すと、両者満足そうに笑った。さて、形式的な必要事項の話は終わった、と少し固くなっていた雰囲気を緩める。


『くれぐれも男装のこと、ばらさないでくれよー?』
「大丈夫にきまってるだろう。着替えは、ここか保健室ですると良い。」
『わかった!今日はトイレで着替えたよ』
「トイレって…男子トイレだろう?お前さんは何してるんだい、全く。誰もいなかったんだろうね?」
『いたかもだけど…まあ大丈夫でしょ。』
「…気をつけなさい」


思わぬ発言に呆れ顔になるが、この子には何を言っても通じない。それを知っている竜崎は、危うさを感じつつも注意するだけにとどめた。要領の良い子だ、なんだかんだでひょうひょうと乗り越えていってしまうのだろう。


『わかってるよ。あ、あとさぁ、合宿とかあったら、部屋は越前リョーマと一緒にしてくんない?友達になった。』
「おや、もうかい?早いねえ。越前は、きっとまたレギュラーになるよ。」
『そんなに強いんだ?楽しみ!あ、そうそう。仮入部期間はおとなしくしてるつもりだよ』
「できれば、あまり暴れないでほしいんだが」
『私を呼んだ時点でそれは無理ってやつだよ。』
「…そうかい。」


やっぱりこの子には、何を言っても通じない。こちらが折れておくのが一番良い。竜崎は、苦笑しつつ話を終わらせた。それに、だ。案外、暴れてもらったほうが良い刺激になるのではないだろうか。あいつらのためになるんなら、暴れられるのも悪くないかもしれない。そう思いなおすと、竜崎は笑った。



『んじゃ、これからよろしく!』
「ああ、よろしく頼むよ」


ばたばたと騒がしく名前が出て行ったあと、竜崎は「今年は化け物が増えた…怖いねえ」とつぶやきながら、先を見据えてにんまりと笑うのだった。

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