act.43



こんにちは、朝野咲月です。
ただいま恒例のゲーム大会をしています。前回はモンハンだったけど今回はマリオカートなんだ。ゲーム機が安易に持ち運べないから隆文くんの住む天秤座寮の広間でやってます。ちなみに相手は弥彦くん。隆文くんは先程小熊くんと対決して華麗な勝利をおさめていた。小熊くん、半泣きだったんだけど。何したんだろう隆文くん。
………まあ今は、目前の敵(弥彦くん)を倒すことに集中だ!私、負けない!

と、意気込んでたのがつい三十分前。

「………嘘だ」

「ウソじゃなーい」

弥彦くんの指差す画面には二分割された映像があって、上半分が『WIN』と大きな赤文字で記されている。対して下半分が『LOSE』と青い文字でチカチカと表示されていた。
ちなみに私は下の画面に映るキャラクターの主導権を握っていた。

………ま、はやい話負けた、ということである。

「ずるいよ弥彦くん!あそこでバナナ引っ掛けるのよくないよ!」

「咲月、そういうゲームだ。諦めろ」

「ええええええ!!!!」

ふてくされながらコントロールを放った。画面は相変わらずWINとLOSEが点滅していて、思わず顔をしかめる。

「はあ…じゃあ罰ゲーム言っていいよ。なに?」

「んん〜、悩むなー」

「ちなみに俺は昼食一週間分奢ってもらう」

「………………うう」

「なんてえげつないんだ隆文くん」

だから小熊くん半泣きだったんだ…。一週間分はキツいぞー。
えぐえぐと目頭をおおう小熊くんをよしよしと慰めていると「決めた!」と弥彦くんが声をあげた。どうやら決まったようだ。なんだい、と聞くと、

「じゃあ、三日間俺だけを名前呼びってのはどうだ?」

「ええ?なんでまた…」

あ、いや別にいいんだけどさあ。

「だってさーあ、お前、皆のことほとんど下の名前で呼んでるじゃん?だからせめて三日間だけは俺だけ名前呼びされていたい!」

「…あんたって本当欲望の塊だよね弥彦くん」

「うるせー!男子高校生の模範といえ!」

「や、模範ではねーよ」

「シャラップ犬飼!!!!」

ぎゃあぎゃあと口論を始めようとするバカ二人を抑えて、弥彦くんに問う。

「えっと、じゃあ隆文くんも犬飼くんって呼べばいいの?」

「おう!」

「うわあ…なんか距離遠くなった気がする」

「宮地とか金久保部長も名字で呼べよ!咲月!」

「はいはいわかったわかった。え、いつから?今から?」

「や、今日は日曜だし、明日から三日間よろしく!」

「はーい、了解」

じゃー私、そろそろ帰るね、と重い腰を上げて立ち上がると、俺送ってくぜ、と隆文くんが言ってくれた。なんと…!意外である。

「じゃあなー、咲月」

「咲月先輩、また明日!」

「うん、バイバーイ」

「咲月ー、行くぞー」

「はいはい」















天秤座寮を出るともう外は夕暮れだった。…なるほど、だから隆文くん、柄にもなく送ってくれてるのかな?

「お前今失礼なこと考えてんだろ」

「滅相もない。隆文くんも成長したなー…と思っただけさ」

見透かされたような言葉に慌てて弁解すると、隆文くんは遠くを見つめて自分の名前を反芻した。

「『隆文くん』ね…」

「?どしたの隆文くん」

「や、明日からお前が『犬飼くん』呼びになるのは慣れねーだろうなー、と思って」

「あ、じゃあ弥彦くんがいない間は罰ゲーム施行しない方向にする?」

ふと思い付いたことを提案すると、隆文くんはいや、と首を振った。

「白鳥が居ないからってやらないのは罰ゲームに反するだろ。それはだめだ」

「あ、そう。私は別に名字でも名前でもいいけど」

「………お前にとってはそうでも、俺たちにとっては重要なことなんだよ…」

「え、何か言った?」

「なんでもねーよ。じゃあなー」

「え、あ、うん、また明日」

気付いたら寮の前で、隆文くんは踵をかえしてさっさと帰ってしまった。…さっき何と言ったんだろう、隆文くん。
小さくなっていく彼の背中を見送ってから、私は部屋に戻った。







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