act.34




弓道とは精神統一によって集中力を高め、矢を放ち的を射抜く、日本古来から伝わるスポーツだ。矢を射るだけだが、当然体力も必要なため、ランニングは必要不可欠。しかし体力面だけ鍛えても、いい矢など打てるわけが、ない。

「そういうわけで、本日の部活は集中力を高めるために書道をする」

龍之介くんが腕を組んで仏頂面で言い放った。ええー…と上がる不満そうな声。やかましい!集中力がなくて弓道部と名乗れる資格などなし!と龍之介くんの一喝で静まったけれど。

弓道部に遊びにきたはいいけどやることがない私は、月子ちゃんや誉先輩、梓くんが半紙や筆を用意している間ごりごりと墨をすっていた。ごりごりごり。途中で面倒くさくなって墨汁使った。

「誉先輩、墨できました」

「ああ、ありがとう咲月ちゃん」

「部長、半紙足りますかね」

「うん、大丈夫だと思うよ」

「準備完了!っと」

書道の準備ができた。弓道部の皆が袖を捲って固定し、各々半紙の前に座る。私はみんなの邪魔にならないように、そっと見守る。

さらさら、と静かな弓道場に響き渡る筆と半紙が擦れる音。皆集中して書いているなあ、さすが弓道部。集中力抜群だね!



















「書けたーっ!」

「俺も!」

いの一番に声をあげたのは弥彦くんと隆文くんだった。どれどれ見せてと覗き込むと、

『彼女が欲しい』

『にんげんだもの』

と書かれていた。

「………………………なに、これ」

「副部長が好きなこと書けっていうから、思うままに書いてみました」

「いや普通熟語書くだろ。しかも隆文くん左端に小さく『たかを』ってなんだよ!お前隆文だろうが!みつをっぽく書いてんじゃねーよ!」

「えー?みつをっぽくね?」

「いや、意味がわからないから」

「おまえら…」

「おっと副部長様がキレそうだ!逃げるぞ白鳥ーい!」

「がってん、犬飼!」

「あっ、こら待て!」

龍之介くんがキレる寸でのところで、隆文くんと弥彦くんの二人は鮮やかに逃げていった。キレそこねた龍之介くんは不機嫌そうに顔をしかめたまま、二人を追いかけることなく自分の書道の前に戻る。

………これどうしよう。

二人の作品をじっと見つめて、私はそれを放置することに決めた。

「よし、できた!」

「おお、月子ちゃんはなんて書いたの?」

見せて、と覗き込むと、半紙には綺麗な字で、

『初志貫徹』

うん、非常に彼女らしい書道だと思う。これが書道だよね。さすが月子ちゃん!よくわかってる!だから『貫』の左にりっしんべんを書いちゃいそうになって『慣』になりかけたことなんか比じゃないね、うん。

「僕も書けましたー!」

「僕も」

一年生コンビが書けたらしい。近付いて見てみると、いかにも小熊くんらしく、

『弓道』

と書かれていた。弓道好きとわかる書道だ。なんか弓道部っぽい!
対して梓くんときたら、

『咲月』

「おい、なんで私の名前なんだ」

「だって宮地先輩が好きなこと書けって」

「いやいやどう考えてもおかしいだろ」

人の名前書くのはよくないと思うんだ!目標とかさ、書くよね、普通。

「ね、龍之介くん!」

「む…?」

「おいぃぃぃ!!!!!お前までなに書いてんだあああああ!!!!」

ぱっと龍之介くんを見ると、彼の半紙には力強く『咲月』と書かれていた。弓道部の男子はバカしかいないのか。

「誉先輩、は…」

「ん?どうしたの、咲月ちゃん」

誉先輩の半紙には『祈願成就』と書かれていた。…先輩、絵馬じゃないんだから…。でもあの二人よりかマシか。

「先輩、なにか成就させたいお願いがあるんですか?」

「うん、いっぱいあるよ」

「へえー」

誉先輩のことだから世界平和とか核廃止とかかな。うん、多分そうだろう。

「叶うといいですね」

「……うん、そうだね」

誉先輩は私の顔を見つめてから、なんだか意味ありげににっこりと微笑んだ。







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