恋心をもう一度
僕が二年生、なまえ先輩が三年生になって少しすぎた頃。なまえ先輩の様子が妙になった。目があっても逸らされるし、話しかけてもどこか困ったような表情でしか応対してくれない(でも話してくれるだけマシ、なのかな)
もしかして僕に飽きたのかな、なんて一抹の不安が芽生えて、すぐにたたきつぶした。そんなわけ、ない。そんなわけないんだ。
「最近梓くんの弓、不安定だね」
「ああ…二年生になってからますます悪くなってきたな…」
僕の後ろで夜久先輩と宮地先輩がひそひそと話してるのが聞こえる。ああ、クソ、また外した。大会にはまだ全然日があるからいいものの、このままじゃだめだ。こんな心理状態で、弓なんか引けない。
僕は弓を置くと、弓道場を飛び出してなまえ先輩のもとへ向かうことにした。後ろで先輩たちが僕を呼ぶ声が聞こえたが、構わなかった。
弓道場を飛び出して、すぐに携帯を取り出してなまえ先輩に掛ける。着信拒否されてたらどうしよう、と思ったけれど繋がったコール音にされてないとわかってほっと一息吐いた。
『はい、もしもし』
「あっ、なまえ先輩!!今どこに居ますか?」
『え?屋上庭園だけど…』
「わかりました、ありがとうございます」
パチン、と携帯を閉じて、僕は全速力で屋上庭園に向かった。
「なまえ先輩!!!!」
屋上庭園に着いて早々、先輩の名前を呼ぶ。反応なし。え、もしかして居ない?だまされた?
まさか、と思ってると
「あ…梓くん」
「ぅえ!!?」
後ろからなまえ先輩が現われた。
ハンカチを持っているところからするとトイレにでも行っていたのだろう。ああよかった、だまされてなくて。そこまでされたらさすがに泣く。
「な、何か用?」と僕の目も見ずにおずおずと聞いてくる先輩に、若干の苛立ちを覚える。いいや、もう聞いてしまおう。
「なまえ先輩、単刀直入にお聞きします」
「え、なに」
「先輩は、僕のこと、嫌いになったんですか?」
これで「はいそうです」と肯定の返事をもらったら、僕はもう自殺するしかないな。
じっと先輩を見つめて、返事を待っていたら、
「うわああああんごめんね梓くうううん!!!!!」
「うわ、」
ガバッと先輩が僕の腰に抱きついてきた。一年前と比べて僕の身長はにょきにょきと伸びたから、先輩が小さく感じる。
…じゃなくて、これはどういう意味の「ごめん」なんだろう。恐る恐る聞いてみることにした。
「あ、あの、先輩?ごめん、てどういう意味ですか?」
「え?ずっと避けててごめんね、て」
「………………………」
よかった。本当に、よかった。嫌われて、なかった。安心して少し涙腺が緩んだが、ぐっとこらえて未だ僕に抱き付いている先輩の背中をよしよしと撫でた。
「先輩」
「ん?」
「よかったら、避けてた理由を聞かせてくれませんか?」
「う…え、いや、その…」
途端にしどろもどろな態度になるなまえ先輩。目が泳いでる。……一体どんな理由なんだろうか。ますます興味が湧いた。
僕は、先輩が逃げないようにがっちりホールドすると、先輩の耳元で囁く。
「聞かせてくれますよ、ね…?」
「ううううう…!!」
先輩は話すまいと口を一文字に結んでいたが、僕がじっと見つめるとついに口を開いた。
「あ、あのね…梓くん、二年生になって身長伸びたよね?」
「は?ああ、まぁ伸びましたね。まだ伸びると思いますが」
それがなにか関係あるのか?
「ま、ますますかっこよくなっていくからさ…どう対応すればいいのかわからなくなっちゃって…………うわあ!!?」
「なまえせんぱい…!!」
僕がますますかっこよくなっていくから対応がわからない?……なんて可愛いこと言うんだこの先輩は…!!気付いたら、先輩を強く抱きしめていた。
そんなの、いつも通りでいいんですよ!と言うと、先輩は目をぱちくりとさせてから「そっか、」とふわりと微笑んだ。
「…!!」
バクバクと脈打つ心臓を感じながら、僕は思わず、腕の中の先輩にキスをした。
夜久先輩、宮地先輩、心配かけてすいませんでした。明日からは、いい弓が引けそうです。
恋心をもう一度
◎あずにゃんの身長はもう伸びないと信じていた…信じていたのに…!!←
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