>> 第2章



私が主上付きになって半月が経った。
ちなみに主上に会ったことはいまだ、ない。

「退屈だな…」

暇すぎる。
せっかく探花で及第したってのに他の同期の進士たちはもう戸部やら吏部やらで雇われてあくせく働いている。

「それに比べて私はなんだ」

もしかして厄介払いされたんですかね!うっわ、腹立つな!

ていうかあともう二人、主上付きになった人達がいるって聞いたんだけど、その人達にも会えてない。
…なにこれイジメ?
ち、ちくしょう!旺季さんのくそじじい!

やることないので庭院に出て剣術の練習をすることに決めた。
腰の剣を抜いて、しっかりと握る。
ああ、この剣の重量感好きだな。
普通より少し細身のこの剣は、女性の私でも軽々と扱えるように改良してある。
ちなみにくれたのは旺季さんだった。
あの人何だかんだいって世話好きだよねー。


なーんて考えながらひたすら剣を振るっていた。…んだけど。


「誰だっ!?」

背後から明らかに人の気配。
剣の柄を握り締めたまま振り向くと、そこにはキョロキョロと人目を気にしたように近付いてくる美青年の姿だった。

「あ…練習中悪い。ここ通るだけだ」

…なんでこんな微妙なところ通り道にしてるんだこの人…。
もしかして迷子?…いやいやそんな馬鹿な。一官吏なら朝廷内ぐらい完璧に覚えていないと務まらないんじゃ…。

などと思案していると、ちょうど迷子疑惑の青年の前から、武官らしき青年がやってきた。うわ、あの人もいい顔してんな。

「あ、いた!絳攸!」

「げっ、楸瑛」

どうやらお知り合いのようで。

「だから勝手に動き回るなといっているだろう!」

「や、やかましい!厠からの帰り道ぐらい俺だってわかる!」

「いやいや、わかってたらこんな道通りませんって!」

「「!!?」」

おっとしまった。つい口出ししてしまった。
弾かれたように振り向く二人。

「そういえばこの方はどなただい、絳攸?」

「俺が知るか。というか今は出仕時間だぞ。お前こんなとこで剣の練習してるってことは武官か?」

「いえ、文官ですが」

「所属はどこだい?」

なんだこの人達…やけにぐいぐい来るな。私がどこ所属だっていいじゃないか。なんで上から目線?

まあ答えるけどさ。

「先日嫌々ながら主上付きになりました」

本当は仙洞省がよかったんだけどねー。
しかもなったはいいけど肝心の主上と他の主上付きに会えてないしね!

あははんと笑って彼らを見ると、何故か目を見開いたまま硬直していた。な、なんだよ怖いな。
試しに近付いて目の前で手をひらひらと振る。…反応ナシ。

「どうしたんですか大丈夫ですか迷子青年とイケメン武官」

「誰が迷子だーーーっ!」

うわあびっくりした。

「びっくりするからいきなり叫ばないで下さいよもー」

「びっくりした割にはリアクション薄いな!」

「ていうか何なんですか、いきなり固まって」

最近流行ってんのか。いきなり硬直する遊び。…どんなだ。

「君が、三人目の主上付きかい?」

「ええ私が三人目の…って三人目?……もしかしてあなた方が私の他の主上付きってやつですか」

「ああ、私は藍楸瑛。左羽林軍に所属している」

「俺は李絳攸。吏部侍郎だ」

「私は藤零夜。今年及第して配属先がいきなり主上付きで困ってる18歳です」

「えっ今年及第したばかり!!?」

「真っ白な官服が一体何色に染まるのかワクワクしていたらいきなり私服だよ!楽しみ返せ!」

あー…とかまぁ…とか何か言おうとしてくれる二人の優しさに心がじんわりした。ありがとういい人達。結局何も言われてないけど。

「まあこんなところで立ち話もあれだし、どこか行かないかい?」

「そうだな」

「ですな」



そんなこんなで私達三人はぞろぞろと移動した。迷子青年とイケメン武官と無所属の私…。

本当に、なんで私選ばれたんだろう。女ってバレてるわけでもないのに。


…わからん。






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