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空回り


※夢主死んでます注意



宇宙に行ってみたいと、君は口癖のように言った。
僕は、君が遠くに行ってしまう気がして、怖かった。
それでもただ微笑んで、そうだね、と返した。

君はある日、線路に落ちて電車に轢かれた。




ふと、自分は何故ここにいるのかと疑問に思うことがある。
だから、僕は少しでも、ここにいる意味を見出そうと生きてきた。
それは、自分がもう少し幼いころに自殺した、アリアの分まで生きるという、幼いながらの決意から始まり、生長するにつれ、アリアを僕の中に閉じ込めておくため、と解釈し、そしていつからか、次にアリアと会うときに、満面の笑みで久しぶり、と言えるように。そう、聞こえがいい風にポリシーをつくり、自分を守るように僕は生きてきた。
「ヒロトー」
僕の名を誰かが読んだ。
「何、リュウジ」
「何、じゃないよ。もう皆グラウンドに集まってるよ、早くおいで」
言われ、僕は当たり障りなく笑んで、
「先いってて。...ちょっと、体調悪くてさ」
それは、本当の事であった。さっきから、頭に妙な痛みを感じていた。
「あ...うん。わかった」
ボールを手にして走っていく彼。僕は、この頭痛の原因はお馴染みの偏頭痛かと思ったが、どうにも弱く、じんわりとくるそれにため息をついた。今日は、帰ろう。

僕は、気付くと胸元へ手をやっている自分に気付いた。
不安になると、ペンダントへ手を当てる癖。
それは、アリアに貰った、月をかたどった銀色のペンダントだった。ビー玉のような、赤い石が中心にはめ込まれており、それは透明に光を発した。ベテルギウスという星を模したものだとアリアは言っていた。
ふっと、自分が誰か分からなくなった。どうしてここに立っているのか、と自分に問う。答えは、いつだって出せないままだ。
ぐらり。あ、やばい。そう思った時には遅く、肩に鈍く痛みが走った。目の前がおかしい。ぐにゃりと、絵の具をかき混ぜたように歪んだ世界。
あぁ、まただ。最近食欲ないし、ろくに食事とってないしなぁ。貧血。それは、簡単に判断を下せた。
暫くこうしていよう。ここが公道の真ん中で、いつ車に引かれても仕方のない状況下だとわかっていても、どうしようもないのだ。
俺は、静かに目を閉じた。じん。じん。頭が鈍い痛みを発する。目の奥がちかちかして、どこか懐かしくさえ感じた。このまま、地面に融けてしまえたら。ふとそんなことを考えた。




「・・・?」
目が覚めると、僕は人ごみの中にいた。
この風景には、何故か見覚えがあった。僕は、遠くに赤髪の少年を見つけ出す。
僕。
それは、まだいくらか幼い僕の姿だった。
「あ、」
その隣には、アリアがいた。楽しそうで、どこか興奮したような笑み。
「ヒロト、」
「なぁに?」
ざわざわざわざわ。
人々の喧噪のなか、何故か二人の会話がよく耳に通った。
「私ね、宇宙に行ってみたい」
「...そうだね」
少女が、"僕"の頬を包む。
「...ヒロトは気付いてる?私がそういうと、いつもあなたは、泣きそうな顔で笑う」
"僕"は、驚いたように目を見開く。そう、そうして彼女は言うんだ。
「...薔薇星雲って知ってる?」
僕は、震えた声で言った。喧噪は、いつのまにか聞こえなくなっていた。
二人が、ゆっくりとこちらを向く。
「真っ暗な空に、赫を零したみたいに、綺麗なの。ほら、見てて。私は今から」
にこり。アリアの頬が上がった。
「そんな星雲みたいに、宇宙に散る様に、
 綺麗になれるから」



「っ!!」
自我に帰った。ガンガンガン。頭は妙なリズムを刻み続ける。
胸元に手をやる。かきむしるように、それを探せば、握った。
夢だ。夢だ夢だ夢だ。そう、夢だったんだ。なのに。なのになんで。僕はこんなところにいるんだ。ここは、アリアの墓の目の前じゃないか。
不意に、後ろを振り返る。すると、誰かと目線がぶつかった。
「...アリア...」
それは、哀しい目で僕を見つめるアリアの姿だった。
「ヒロト、」
「...君は、どうして宇宙に行きたいと思ったの?」
口が勝手に動くように、言葉を発した。
「...」
彼女は少し目を見開いた後、微笑して言う。
「僕、ね。この社会が大っ嫌いだった」
口元を歪んだアリアの顔。それは何故か、酷く僕の頭にこびりついた。
「綺麗な星みたいになりたいとか、地球を自由な空で照らしたいとか、そういうお綺麗な事じゃない。...ただ、」
自嘲の笑みを漏らす彼女。僕は呆然と立ち尽くすことしかできない。
「バカらしい世界を、誰の手も届かないあそこから、見下したかっただけ」
コロン。
折角捕まえたはずの赤い石が、また手から転がった。僕は何故か、それを拾う気にはなれなかった。
「...私は、貴方が思ってるより最低で汚い人間だよ」
僕は、少し彼女に歩み寄る。
「...僕はずっと、一人だった」
「・・・?」
急に語り始めた僕に、アリアは首を傾げた。
「初めてできた最初の友達がアリアなんだ」
僕はその時初めて、赤い石を拾った。
少しだけ傷ついてしまった側面を癒すように撫で、優しくペンダントにはめなおした。
その動作を、アリアはじっと見ているような気がした。
「そして、...僕の初恋の相手で、...今もずっと、大好きな人が」
アリアなんだよ。
僕は、ペンダントから顔を上げていった。
「...じゃあ、本当の私を知って絶望したでしょうね」
「ううん。」
僕は、優しくアリアを抱きしめた。それに、アリアは何も言わなかった。ただ、風を抱くような、変な感じがした。
「僕は、少なくとも君が優しくないことくらい知ってるよ」
「・・・」
「そんな君だから、...好きになったんだ」
アリアは顔を上げた。僕に視線を合わせ、ポロリ、と一滴零した。
「ヒロ、」
「...あーあ、..初恋は実らないって本当だよね」
「っ・・・!」
彼女は、次には僕の胸に顔を埋めると、泣きじゃくった。
ごめんなさい。何回もそうくりかえし。
今まで押し込めてきた思いを。苦痛を。壮絶な何かを開放するように。
それは、確かに僕の胸に沁み込んでいって、温かかった気がする。
「ヒロト、顔、向けて」
不意にそう聞こえ、顔をアリアに向けると、アリアは目を閉じた。
僕は、ただ無に身を預けるように、吸い込まれるように。
そのままゆっくりと近づいて。
初めて唇に感じたのは、氷のように冷たい温度で。







   。
  回  .

     *
    ・


(顔を上げればありがとうと)
(消えゆく声が聞こえた)






---キリトリ---
聖音様に捧げさせて頂いた物のボツバージョンです
何故ボツになったかというとセリフがどう考えてもヒロトだったからです

お粗末様でしたーorz


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