つくいざ企画様に提出
今回の九十九屋さん
1、大学生
2、眼鏡
の2点が大丈夫な方は以下からどうぞ。
「あんたさぁ、コンタクトとかにしようとか思わない?」
なんとなく暇で尋ねてみれば、別にそんなことは思わないと簡潔に返された。なんだかつまらない。初めて姿を見た時は素直に驚いた。なにせ、随分若いやつだったから。俺の勝手な想像だけど、もっと年を食ったオッサンだと思っていたからだ。九十九屋は持っていた本を閉じてこちらを向き、コーヒーを一口啜った。
「それで何故いきなりコンタクトにしないかと尋ねて来たんだ?この辺りならコンタクトの店はいくつかあるが、どれも素直に頂ける程のものではないな。」
相変わらず態度のデカい奴だ、と俺も同じようにコーヒーを一口啜って目線を九十九屋に向ける。
「別に?いつもの知的好奇心さ。俺は人間が好きだからね、人間がどんな行動をするのか知りたいのさ。ほら、知らないことを知りたいってのは人間なら誰でも持っている純粋な欲求だからさ。ところでさ、俺はあんたが眼鏡外したとこ見たこと無いんだけど、本当に目悪いの?」
目が悪いか悪くないか、という身近なことでさえ俺は知らないと思った。いつか必ず居場所を突き止めてやると思ったにも関わらず、実質的に言えば九十九屋がわざわざ俺に分かるように仕向け、招待した。理由はわからないが悔しいのは事実だ。同じ情報を売る者として負けている気がするのは気に食わない。そう思いながらも九十九屋真一と言う人物の断片的な事さえを知らない俺が酷く矮小な存在であるかのように思えてきた。俺が知っているのは本名かも知り得ない九十九屋真一といい名と眼鏡、そして大学生と言う身分くらい。その癖に奴は面白いくらいにポンポンと人の情報を吐き出して行く。人に自分の何かを知られているのがこの状況がこんなにも苦痛で屈辱的だとは今までに思いもしなかった。
「目は本当に悪い。それは確かな事実だが、折原はそれを知った所で何か他に目的はあるのか?コンタクトの件は悪いがさっきも言ったように何があっても俺は変えたいと思わない、よって諦めた方がいい。」
閉じた本を片手に本棚に戻した九十九屋は別のノートのようなものを取り出してパラパラとページをめくり始めた。俺はそれをただ眺めながらコーヒーをまた一口啜る。九十九屋が元の場所に座ると同時にジャーッと持っていたコーヒーカップの中を全部奴のコーヒーカップに入れ替えると微動だにしなかった九十九屋は一瞬だけ訳がわからないと言うような顔をした。チャンスだと思い、手伸ばして眼鏡を取り外すと一気に呆れた顔になる。
「折原、随分ガキくさいことをするんだな。お前のことだから大人しく返せと言っても返しはしないだろうな。だからこそ敢えて言う。大人しく眼鏡を返せ。さもないと、平和島静雄を呼ぶかあるいは粟楠会と明日機組にお互いが有益な情報を流すだけだ。」
「おお、怖い怖い。わかってると思うけど、改めて言おう、アンタもその俺のガキくさいことに随分ガキくさいことで返してるって、ことをさ。眼鏡1つでそこまでとはね。改めてアンタに興味を持ったよ。」
手のひらで開いたり閉じたりを繰り返す眼鏡を一度大きく開いて端っこに唇を付けて離して、キスしてみる。ヒョイとぶん投げ返した眼鏡にバイバーイと笑いを返せば、キャッチする九十九屋は嫌に不機嫌だ。そのまま投げ返された眼鏡を見ては一度折り畳む。向かい合わせに座る右手を掴まれて引っ張られる。そのままくっ付けば2秒程経過しただけでそれは離れた。
「バイバーイ、折原。」
眼鏡をかけ直した九十九屋は実に愉快な顔をして笑っていた。それが至極悔しくてテーブルの脇に置いてあるスティックシュガーの封を切って、たぷたぷになっている奴のコーヒーカップに注いだ。砂糖が吸い込まれていく様が今の自分にとって非常に劣等感を生み出し、それをかき消す為にカップを持ち上げて九十九屋にかけようとしたが直撃はせずに少しかかった程度だった。
「落ち着け、折原臨也。そんなんじゃお前の特徴が完全に消えてしまっている。そこらの癇癪を起こした子供と同じレベルだ。あぁ、お前が別にそれでいいと言うなら別に俺は止めないがな。」
「くそ…、いつかアンタの重要な情報必ず掴んでやる…。」
舌打ちすれば、それさえも楽しそうに笑う奴がいた。その眼鏡の縁に小さく赤い印が追加されていた。
【キスミーグッバイ、】
(アンドキルユーハロー)
2010,05,22
つくいざ企画「アイリスは午前3時に眠る」様に提出します。
最初は眼鏡の縁にキスをする臨也を書きたかったんです。
そこから九十九屋さんが眼鏡で不意に取られたりして、臨也と同じことをやらせたいな…って思いました。
素敵企画様に参加出来て光栄でした…!
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