気だるげに目を開ければ、目の前に新羅がいて驚く。
そうして、昨日起きた事実を頭に思い浮かべて、どうしようもないくらいに笑いが込み上げてくる。手を伸ばして新羅の頬に触れてみると、温かくて人間みたいな体温をしていると思う。
このまま目を覚まさなければいいのに、と思うのは間違いなく自分の中のいらない感情であって、一番捨てた方がいいものであると理解している。
だからこそどうしようもない感情だけが渦巻いてしまっているのだと、そんな堂々巡りなことを考えてしまっているのだろう。
新羅から手を離して、転がり落ちるようにベッドから抜け出すと、回りに落ちた衣類を掴む。
こうして改めて見ると、自分のものだけが散らばっていて新羅のものが全く無いことに気づく。
そして、ベッドの中の新羅は白衣まで着て、寝ている。
下着を着て、Tシャツを着たあたりで、そのTシャツが後ろから引かれていることに気づいて、振り向く。
「やぁ、臨也。気分はどうだい?」
「別に普通かな。あんまりいつもと変わらないかも。眠いけどね。」
そう、変わらない答えを新羅に言うと、つまらない、と一蹴されて終わる。
じゃあ、つまらなくない返事って一体なんなんだよ、と思いながらも、Tシャツ離して、と返す。
新羅は言われた通りにするん、と未練など全くないと言った風にその手を離した。
起き上がった新羅は時計を見ると、まだ明け方じゃない、と言ってくる。さも、起こしたのが不機嫌そうにだ。別に俺がそこまで起こした訳では無いのに。
ズボンを履こうとした時に、急に新羅は待って、と言ったので、どうしたのか、と問う。
顎に手を置きながら、何か考えている様子だったのでそのままベッドサイドに座って、待っている。と、唐突に新羅はやりたいんだけど、と言ってきた。
「なに、今から?」
「ちょっと試してみたかったことがあってさ、臨也は断れないだろう?」
確定事項のように、当たり前に、拒否をするわけがないと思われている。じゃあ、俺が拒否をしたらどうなるのだろう。
黙っていると、新羅はにこりと言う形容詞が似合う笑い方をした。正直、新羅自身にはその笑い方は全く持って似合わないけれども。
「イヤだよ、もう朝じゃない。これから帰るんだから。」
「本当に?僕は君のことなら家族についでくらいに君のことを知っているつもりなんだけど、君は実際、別に嫌だとは思っていないだろう?」
「新羅はなんでもわかったような素振りで言うけど、それが本当だとは限らないよ。自意識過剰なんじゃ無いの?」
驚愕の表情で、新羅はまさか、と言葉を返した。
常々、自分は謙虚な人間だと思っていたよ、とアホらしいことを言ってくる。
着ていたままだった白衣を脱ぎ捨てて、ネクタイも取り去る。
それだけならまるで本当にこれから性行為を行うにふさわしい動作だと思った。
「君は僕に負い目がある。もしかするとまた別の何かかもしれないけれど、どうしようもない罪悪感と空虚感をどこかしらに常に持っているんだ。だから、僕と共有する時間を持ちたい、と思いながらも、その時間を過ごしたくないという相反する感情とのシーソーゲームを繰り返していると僕は仮定するよ。」
「また新羅は勝手なことを言うんだね。」
「だから、僕はそのシーソーの共有したい、の方にたくさんの重荷を乗せてあげようと思うんだよね。君の、申し訳なさをどこかに吹き飛ばすくらいの。僕は友達思いだろう?」
「ああ、そうだね。」
もう面倒になって適当に相づちを返した。それもわかっているのだろう。なんとなくそんな気がした。押し迫る新羅は片手に外したネクタイを持って、手を出して、と言う。それに緊縛プレイでもするのかと思ったら、そちらではなく視界を遮られた。
じゃあ、なんで手を出させたんだと思っていると急に手首に冷たいものが当たって、そして、カシャン、と音がした。
「何をしたの。」
「ちょっと手錠をね。折原臨也遂に逮捕されるジャジャーンみたいな。」
そうして、広げられた手のひらに今度は同じく冷たいけれどもネットリとした液体が掛けられた。
甘い匂いが充満いることから、恐らく潤滑剤ローションの類いだろうと予測がつく。
履いたばかりだというのに取り去られた下着に急に心もとなくなる。
「ちょっと自慰してみてよ。あ、もちろん、自分で穴広げてって意味だからね。」
「は?」
だから、と同じ言葉を続けられる。そんなこと普通ならやりたくない。手のひらからベッドに溢れ始めるベトベトのローションに新羅が、あんまりこぼさないでよ、と言ってくる。
「ねえ、早く。」
言葉につられるように、目の前で止められた手錠付きの両手で前から手を持ってきて、手のひらのローションを全面的にべっとりと塗りたくる。そして、少しずつ指を入れると、新羅が、やっぱりこの体勢での自慰はそそるポーズだと言ってくる。
両手で性器を押さえるように丸まるポーズは自分からしてみれば恐ろしく滑稽だけれども。
もう、いいよ、と言ってくると新羅の手が肩に触れて、俺は指を抜く。
足を開いてくる新羅に後はもう任せようと思う。完全にマグロだな、と思った。
が、新羅は何か無機質なやはり冷たいものを差し入れて来た。
「なに、」
「オモチャ。」
簡潔に返された答えを頭の中で咀嚼する前に動き出したものに、頭が上手く働かなくなる。
「ひっ」
ズクズクと中を揺らすように鳴るそれを新羅は更に押してくる。
自分ではあまり聞きたくない声が口から漏れる。手錠で繋がる手で口を押さえようと思ったけれども、新羅に阻止される。
「それで、さっきの体勢でいてよ。オモチャを落とさないようにさ。」
「ばっ、か、じゃないの?」
ほら、早く、と急かされておずおずと外側に出ている部分を押さえると、びくんびくんと身体が蠢いて仕方ない。
「うん、それでいいよ。」
「ひぁ、あっ、あっ、ひっ、うぁ………し、しん、ら、」
「なに?」
「こ、れっ………!んっ、あっ、」
セックスじゃないよ、とほぼ上手く伝えられない声で言えば、新羅は別にセックスがやりたいわけじゃなくて、観察がやりたいだけ、と当たり前のように告げた。
「だって、やらせてって言ったじゃないか。」
【それは××××ではない】
新臨。
別にそこまでえろくないんですけど、挿入もしてないし、かと言って健全な訳でも無いんですよね。
久々にちょっと酷い新羅。
ちょっとっていうか最近のに比べたらって感じですね。
2012.5.1
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