「ねえ、今日僕誕生日なんだけど祝ってくれない?」
「は?」

別にその言葉の内容におかしいところはない。
ただ、新羅の誕生日が今日であるということをただ単に羅列した言葉だった。
だから、それに対する答えは友達として、え、そうなの?誕生日おめでとう、という言葉がきっと正しいのだろう。
けれども、そうは言っても今日の日付を考えるとそう簡単に言うべきことではないと悟る。

「新羅、今日の日付を見てそれを言っているわけ?」
「うーん、よく考えてよ。今日の日付を見て言ってなかったら誕生日なんだけど、とか言い出さないでしょ。」

腕を組んで真剣に新羅が言ってくる。まあ、それはそうかもしれないけれど。

「じゃあ、証拠見せてよ。」
「私の言葉が信じられないっていうの?友達なのに?」

憤慨だという風に言葉が返ってくる。
だとしても、わざわざ春休みだっていうのにこうやって会っているんだから会う前にそれを言ってくれたら何かプレゼントでも持ってきているかもしれないのに、と返す。
ぱちくりという言葉が似合うくらいに目をしぱたたかせて新羅がこちらを見てきた。

「先に言えば、臨也はプレゼントくれるのかい?」
「まあ、そりゃ、友達の誕生日だからね。言葉で祝うのも確かに大切だけど。俺としては何か形のあるものを渡しておきたいと思うかな。」

そう言えば、新羅はベンチの下に置きっぱなしだったカバンを持って、立ち上がった。
どこに行くの、と言えば直ぐそこの自販機、と返してくる。
じゃあ、カバン毎持っていかなくていいじゃん。
そう思っても、もう歩いていっているのでまあいいか、とココア買ってきて、と付け足しておく。
この時期になってまだ甘くて温かい飲み物を飲むのかと、そんなことを言いたげな目線を送られたけれども、スルーすることにした。
いつもは黒い学生服を着ている新羅が黒と白以外の服を着ているのはなんだか新鮮だ。
そうやって、目で背中を追ってしまうのだ。
赤いティーシャツ、そこまで似合わなくないかもしれない、と思う。
あっという間に小さくなった新羅から視線を手元の携帯に移すと、思ったより時間が経っていたことに気づいた。
そろそろ、どっか暖かいところに行きたい。出来れば、風の無い所に。
いくら春だからといってもまだ肌寒い。
そう思っていたら新羅が声を掛けてきた。そのまま振り投げられた缶をキャッチする。
最近の缶入りココアってどうにも中身の量が少ないと思う。
蓋を開けて飲み始めると、新羅が隣に座るのかと思えば、手を差し出してくる。

「何その手。」
「ちょっと、付き合って貰おうかと思って。」

そもそも今日はお前に言われたからここまで出向いたのに、今更付き合うもどうもないと思う。
新羅の手を掴んでベンチから立ち上がって、どこに行くのさ、と聞く。

「ちょっとプレゼントでも買って貰おうかと思ってさ。」
「今から?」
「そう、今から。」
「それって普通俺から言い出すものじゃない?」

自分の誕生日だから誕生日プレゼントを請求してくるなんて普通恥ずかしくて出来ないものだと思うのに、新羅から見たら違うのかと、呆れた。

「言っとくけど、あんまりお金ないよ?」
「え、それは嘘でしょ。あれだけみんなからお金巻き上げといてさ。」
「その言い方誤解しか生まないから止めて欲しいんだけど。」

と言っても、もうその発言のことなんて新羅は言う必要がないと思ったのか何も言ってこなかった。
いくつかのお店を回って新羅が選んだものは眼鏡ケースだった。
透明で青色がかった、クリアブルーと形象されるようなそんな色のどこにでもあるものだった。
実際、百均で売っていた大量生産のものだった。
本当にこれでいいのか、と聞いてみると笑顔で肯定してくるものだから、そのままレジに運んでいった。
レジ袋に入れようとしていた手を止めてもらって、プレゼント用に包装出来ないかと、頼んでみた。
レジの人は快諾してくれたけれども、普通百均で買ったものをプレゼントにするやつなんて殆どいないだろう。
それが少し恥ずかしくて、眼鏡ケースが欲しいっていうならもっと別のところで買ってやればよかったと思った。
包装をし終わった眼鏡ケースを新羅のとこに持っていく。

「改めて、誕生日おめでとう。はいこれプレゼント。」
「あ、ごめん。僕、誕生日明日なんだ。」
「は?」
「だから私の誕生日は明日の四月二日なんだ。」

謝罪しているにも関わらず、全く悪びれた様子もなく、新羅は自分の誕生日が今日じゃなくて、明日だと言ってきた。

「友達の言うことを信じられないの、なんて言ったのはどこのどいつだよ!」
「だって、今日エイプリルフールだし、嘘、言ってもいいじゃん。」

だからこっちは今日の日付見て誕生日言っているのかよ、とわざわざ言ったのに、と沸々と湧き上がる怒りを眼鏡ケースにでも当たろうとした。
包装された眼鏡ケースをそのまま新羅に投げつけてやろうかと思ったのに、振り上げられた手は阻止された。

「僕の誕生日プレゼントになる予定のものを早くも壊さないでよ。」
「本当、新羅って嫌な奴だよ。」

ぐっ、と力を入れても思ったより下がらない腕に驚いた。新羅の腕力なんて大したものじゃないのに。
すると、新羅が切羽詰った顔で、そろそろ力緩めてくれないと、限界とか言い出すからパッ、と力を緩めてしまった。
すると、あっという間に振り上げられた手を下まで下ろされて、手の中に納まっていた包装された眼鏡ケースをそのまま持っていくのかと思ったが、それは俺の手から離れることにはならなかった。

「でさ、私は明日誕生日なんだけどさ。」
「エイプリルフールだろう?信じられないね。さっき騙されたばかりだし。どうせ、証拠なんて見せてくれないんだろう?」
「それでも、臨也から明日それを貰うって信じているよ俺は。」

にこやかに微笑むから、ああ、新羅ってなんでこんなに面倒くさいやつなんだろう、と思う。
そもそも、誕生日に俺なんかと一緒にいるわけがないだろう。
きっとあいつは片思いの同居人とかと一緒にいたいに決まっている。
そこに自分が入ったら、ただただ迷惑だとそういう目で見られるに決まっている。
それなのに、わざわざそんなこというなんて。本当に面倒くさい。

「なんで新羅ってそういうやつなの?」
「そうは言っても、僕は気づいたらこういう性格だったからわからないよ。自分の性格がいつ変わったか、とかどういうものかなんて自分でわからないことの方が多いと思うしね。」

包装された眼鏡ケースをカバンの中に入れる。
店を出て、そろそろ帰ろうかという声の通りに自分の家までの道を歩く。
途中までは同じ道だから、とさっきまでとは全く関係の無い話をしていた。
丁度別れる辺りまで来て、新羅がじゃあ、私こっちだからと言ってくるので、ああ、じゃあ、またね、と返す。

「明日、待っているからね。」
「本当に明日か知らないけど、受け取ってくれるならゴミ箱行きにならなくてよくなるだろうしね。」
「本当に信用されてないね。俺は君が事前に言えば誕生日プレゼントを買ってくれると言ったからちゃんと言っただけなのに。そりゃあ、最初は騙していたかもしれないけれど、今日じゃないと君に事前に言ったことにならないだろう?」

当たり前のように言ってきて、そのついでに俺の誕生日も聞いてくる。

「明後日だよ。」
「本当に?じゃあ、俺も臨也にならって誕生日プレゼントを買いたいと思うから明日付き合ってよね。ほらこれだけで君と僕が私の誕生日に会う約束が出来たよ。」

笑顔で言ってくる新羅に笑顔で返すのだった。



【そうして僕は嘘を吐く】 

2012.4.1
新臨。
エイプリルフール新臨。
今年はあまり全体的なことが出来なかったので二日続けて新羅の誕生日をお祝いしたいと頑張って明日も更新しにきます。






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