※万丈目と小波さんと十代


いつものように帰宅していつものように部屋の電気をつけたらそこに見覚えの有りすぎる奴がソファで寝ていた。あいつは昔から寝るのだけは嫌に上手かった記憶があったことを思い出したがそんなことは正直どうでもいい。どうしてここにいるかが問題だ。一瞬何かを間違えたのかと振り向きドアを開けそうになったがそのドアノブが幼い頃より馴染みのあるものだったのでドアを開けずにソファの場所を取っているその存在に歩みより、おい、起きろ、と揺すってみた。数秒、唸りはするものの起きる影が見当たら無かったのでそのままごろんとソファから落としてやろうと腕を引っ張ろうとした。


「そんなことをしたら落ちるよ。」


思いもよらない背後からの声に大声を上げれば、万丈目、声がでかいと顔をしかめられた。こちらに歩いてくるそいつは俺の隣に来て、未だに寝ている奴の肩の辺りを叩いて起こしていた。それで漸く起きたのか欠伸をしたソファを占領していたそいつは俺に向かっておはようと挨拶をしてきた。


「おはよう、じゃない!お前ら一体どこから侵入したんだ!」

「万丈目準くんの友達ですって言ったら快く入れてくれたよ。」


それに答えたのは背後からいきなり現れた赤い帽子の小波の方だった。室内でも帽子を外さないのは未だに健在だったのか。いや待て、今気にするべきはそこではない。普通に通されたと言っていたがこっちには何の連絡も入っていない。それに友人だという不確定な情報だけで家のものが通すわけが無い筈だ。


「おい、嘘をつくな。こっちにはなんの連絡も来ていない。」

「ううん……、多分、今から連絡して貰えるんじゃ無いかな……。」


少しだけ考える素振りをした小波は結論を述べるとそれが正しいだろうと言うように自信満々に告げた。だとしても遅いだろうと怒鳴りかけた瞬間に部屋に置いてきた精霊達から声が聞こえてきて振り向く。旦那、友達がお客さんで来ているよ、だとかそんな類いの言葉をいくつかの奴らが叫んでいた。


「お前ら……!話しかける相手が違うだろ……!」

「結果として会えたんだからいいんじゃない。」


こいつ楽観的な部分が酷くなったと頭の片隅で思いながら未だに一言も喋らずに俺と小波の間辺りを凝視している奴の方をチラリと見る。卒業してからしばらく行方知れずで連絡がつかない状態が続いていた。あいつのことだから相変わらずだと思っていたし、いつかは会えるだろうと思っていたから特に気にしてはいなかったが実に四年ぶりの再会だということに気付いた。それに気づいたせいなのかなんだか逆に感動の気持ちの方が大きくなりつつあり、この二人の不法侵入にも寛大な態度になれそうであった。


「ところで用件は一体なんだ。」


「んーと、あと20秒くらい待って。」


チラリと小波が時計のある方角を見て、確認する。よく見たら奴も先ほどから俺と小波の間辺りにある時計を見ていたのかと気づく。しばらくそのまま沈黙と共に時が流れる。何かを口にするべきか迷ったがそのまま何もしない方があっているだろうと思った。針が丁度12時を差したその時に奴が口を開いた。


「今日、俺の誕生日なんだ。」

「えっ、ああ、十代、誕生日おめでとう。」


その言葉は淡々としていたもののそれに答えようととりあえず誕生日おめでとうと祝福の言葉を咄嗟に言った。そういえば、誕生日なんて知らなかったと気づく。その言葉に満足したのか閉じていた口が開いていく。十代が向ける顔は記憶上より少しだけ大人らしさを身につけた顔だったが顔を綻ばせるその表情だけは記憶の中の古いものと何ら変わりは無いだろうと感じた。


「小波に聞いたんだけどさ万丈目ってさ、今月の始めが誕生日だったんだろ?」

「ああ、そうだ。」

「8月って万丈目で始まって俺で終わるんだよな。面白いなって思って一緒に誕生日祝えばいいんじゃ無いかって思って来た。」


小波にその話を聞いたのが昨日でさ、と話は続いていたが要するに誕生日が同じ月だから一緒に祝えばいいんじゃ無いかと言うことらしい。


「実際俺も小波に言われなきゃ、自分の誕生日忘れてたしな。」

「俺はそれはどうかと思ったから十代に言いに言ったんだけど、とにかく十代、誕生日おめでとう。」


まるで行動お見通しと言うように指摘していた小波は呆れた顔をしたが直ぐにソファの近くから立ち上がり、冷蔵庫の方に近づいた。人のものだと言うのに堂々と中身を開けてそこから箱を取り出した。中にはホールケーキが鎮座しており、三等分に早くも切られていた。バリバリと袋を破いて数字が書いてある蝋燭を全部に同じ本数だけ突き刺すと火をつけた。


「これ全部食べるとなると糖分取りすぎだ。」

「まぁ、良いだろ万丈目たまには。」

「それよりお前らも手伝えよ。」


最もなことを小波が言って、俺達も行動に移ろうかと思ったが十代は一応主役だから良いだろうと制止を掛けて俺は皿とフォークを並べた。その瞬間、まだ蝋燭に明かりを点けていないと言うのに十代が電気を落とした。


「このバカ十代!まだ早い!」

「大丈夫だ。」


小波がライターで蝋燭に火を点け始めてそこにしか明かりが無くなる。直ぐに消える明かりにどたばたと音を立てながら再び十代が明かりを点けた。ケーキを食べにかかろうとしたら小波がビールを取り出した。


「甘いものと苦いものを一緒になんて絶対味覚可笑しくなるぞ。」

「どうせ俺達で飲んだこと無いんだから良いだろと思ったんだけど。」

「俺は別にいーぜ。」

「じゃあ、コップ借りる。」


小波が備え付けの簡易キッチンにコップを取りに行った。十代がこっちを見ていたのでなんだ、と聞けば、あんま変わってねーな、と返された。そうそう簡単に変わってたまるかと思ったので、お前もな、と返すと万丈目ならそう言うと思ったと言われた。


「十代。」

「ん?」

「誕生日おめでとう。」

「ありがとな!万丈目。」




【Happy birthday!for Judai!8/31!】




(ところで小波はいつ誕生日なんだ?)(じゃあ、二人の間ってことで。)(じゃあってなんだ!じゃあって!)





2011.08.31

十代ハッピーバースデー
漫画版設定だとしても誕生日という設定は素敵だと思います。
夏休み最後の日が誕生日だと夏休みの思い出になりそうとか思ったり。万丈目にしたのはあの子8月1日が誕生日だったから。万丈目で始まって十代で終わる8月ってなんだかイイナーって思ったり。
そんな感じで一番最初はなんとなく万丈目におめでとうって言われたいとかそんな感じ。小波さんは大変使い勝手が良いです。なんだかんだイケメンだと思ってます。性格的な意味でも。そしてグダグダーーー。









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