学校が終わり春休みに入った初日のことだった。運が良いのか悪いのか、明日からの帰省の手土産でも買おうとぶらついた時に声を掛けられた。いつも通りの真っ黒な服装をして誰にでも向ける様な愛想笑いをしながらそれはもう当たり前の様に僕の隣まで来た。曰く、今日は僕を探していたらしい。それが何でかはわからないけど、とりあえずめんどくさいから引き連れる事にした。彼をどうにかしてお引き取り願うことの方がいちいちややこしいことを考えなきゃいけないからだ。


「明日から帰省するんで家族に何か手土産でも買おうと思っていたんですよ。」

「それは奇遇だなぁ。俺もお菓子を買いに行きたかったんだよね。」


その言葉を聞いた後に行きたいとこが決まっていないのか僕に行き先を聞いてきた。そんなことを言われても決まっていないのは僕も同じだったので、適当にその辺りの店にでも入ることにした。大通りから少し外れた道の先にそれらしき店が見えたのでカランと音が鳴るドアを開いた。このご時世にしては少し珍しいレトロ漂う店だと思った。それに合わせて、店内にはジャズ風な音楽が鳴り響いていた。僕はあまりジャズ系統に詳しいと言うわけじゃないからそれは曖昧な意見になるのだけれど。同じ様に店に入った臨也さんはショーケースの中身を見るよりも店内の雰囲気が気になるのかチラチラと壁や時計や店の奥ばかり見ていた。彼は本当に菓子を買いに来たのだろうかと少々呆れた目で一瞥してから、色とりどりの着色料で色づけされたであろうマカロンを一袋買って、袋に詰めてもらった。


「帝人くんらしい選択だね。」

「それはどういう意味ですか。」


袋を手に下げた途端に話しかけて来た方を見て答える。ちなみに臨也さんは漸くショーケースの中を見始めたようだ。彼はまるで僕がそれを選ぶのがなんとなくわかるとでも言いたいのだろうか。


「帝人くんは手作りと称されるものよりも最先端だとか、中々に非凡なものだとかを好みそうだから。自然に出来る淡い色づけよりは、人工で作られる固体を主張した色づけの方を選びそうだな、と思ったんだよね。」

「……それはまた勝手な理論ですね。僕が本当は手作り溢れるものが好きだったらどうしたんですか。」

「それだったら手作りって値札に書かれてるやつを選ぶよね。無意識でそれを選んだってことはそうなんだよ。否定とかしない方がいいよ。俺はそういうとこも含めて帝人くんだと思うし。」


臨也さんは話をそこで切ると店員さんに手作りロールケーキだかを注文していた。まるで、当て付けの様なその選択に多少なりともイラつきを覚えながら結局、二人で店の外に出た。その時に臨也さんは手に持っていた袋を僕に差し出すと、誕生日おめでとうと笑った。多分笑った。


「臨也さん、僕の誕生日は明日なのですが。」

「明日から帰省だって聞いたからフライングしてみた。」


貰っていいものか少し戸惑ったが、手を差し出したまま微動だにしないので恐る恐るそれを受け取りお礼を言った。片手に同じ袋が2つ並ぶ形となった。臨也さんに甘いものというよりはお菓子が似合わないと思った。彼だって、ケーキやクッキーやポテトチップスや食べることだってあるだろうに、何故か酷くバランスが取れていないように見えて仕方なかった。それを言ったら、どうしてそう思うの、とケラケラ笑われそうな気がしたので言わないが。


「手作りロールケーキを選んだのはさ、値札の材料を見て全て自然の物を使ってると思ったからさ。作り方によって味が変わるかもしれない。作り手によって違う料理っての好きだからね。」

「臨也さんの好みですか?」

「そう、俺の好み。」


少し意外かもしれないと思ったが、確かに臨也さんは人間そのものが好きだと言った。そのものとは何も横槍を入れられていない自然体な姿であると考えたら彼が自然なものを好むという考え方もわかるかもしれない。元は人間。むしろ、その人工が加えられたら自然として愛せない。何故ならそいつはもう人間じゃないから。人間とは認めないから。それが多分臨也さんの中の定義。例外が静雄さんだったってことなのかもしれない。彼は確かに人間には無い力を持っているが、それは静雄さんが持っていた力と言うことになる。何かがあってそれに人工処理されたわけじゃない。自然で天然な力だから臨也さんは彼を人間と定義するも、認めたくないということか。


「僕が人工の物の方が好きそうだと言っておいての手作りって……つまり半分嫌がらせ入ってますよね。」

「俺は好きそうだと言っただけで絶対とは言っていないさ。自然、日常、それも良いものだよってことさ。帝人くんにとって池袋はもう日常になってしまったかな。」


そんな訳無いだろう、と言いたかったが止めた。これは多分わかってて言わせたかったのだと思ったからだ。僕の池袋での日常には現在欠落してるものが多すぎるってことくらいわかってる癖に。


「それより帰らなくていいんですか。」

「あー、うん。大丈夫大丈夫。さっき新宿で見かけてさ。」


臨也さんは少しだけ嫌な顔になったが、まぁ、しょうがないと面倒くさそうにため息をついていた。そろそろ時間かな、と携帯を見て手を上げてじゃあ、また、と爽やかな笑みを向けた。それを僕は引き留めた。何かまだあるのかと振り返った臨也さんに人工着色料で色づけられた買ってきたばかりのマカロンの袋を投げつけた。


「臨也さんも少しくらい僕が選ぶような人工着色料にまみれてみてくださいよ。」


投げつけられた袋をキャッチした臨也さんは先ほどより笑いながら、俺は自然体が売りなんだけどなぁと言っていた。





【人工着色料】



20110330

帝臨。
帝人誕生日おめでとうございますな話のつもりでしたが、私が帝臨を書くと基本的にこんな感じにしかなりませんね。簡単に言えば、臨也さんはもっと俺好みになれよ!っていう帝人の話なんですが、実際は、その自然体の臨也ごと好きだっていう帝人です。だったら、今から俺好みにしてやろうじゃないかっていう帝人でした。
読んでくださりありがとうございました。










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