来神。


折原と言えば有名な問題児だ。俺も人のことは言えないとはいえ、俺とあいつでは決定的に違うことがある。あいつは恣意的に問題と呼ばれる行為をしていて俺は我慢が出来なくてそういう行為をしてしまうだけなのだ。確かに、行動に移しているという点では同じかもしれない。でも俺はあいつと一緒にされるのだけは何があろうとごめんだ。意識が違う。あいつは呼び込む。俺は引きつける。それだけなのに大きな違いなんだ。それを同じ問題児とした括りで扱われるのが嫌なだけだ。現にわざわざプール掃除を一緒にしなければならなくなった。最悪だ。これも折原の計算なのか。そもそも俺と折原に大した接点などない。いや、共通の友達がいて、その友達から紹介されて非常にイラついてブチ殺したくなったくらいしか接点などない。


「ねぇねぇ、シズちゃん。」

「その呼び方はなんだ、俺には平和島静雄って名前がある。」


こいつは人をイラつかせる天才な気がしてならない。手も動かさずにひたすらデッキブラシをぐるぐるさせて遊んでいる。なんなんだ、こいつ。さっさと終わらせて帰ろうという気は無いのだろうか。25メートルプールは意外にも広い。それなのに2人だけでやるとか余りにも無謀過ぎるだろう。何より遊んでいるこいつがいると余計に終わらない。


「じゃあ、俺のことも名前で呼んでよ。」

「折原。」

「それ名字なんだけど、名前知らないの?そりゃあ、まだ入学して一週間だけどさ名前くらい知ってるでしょ。」

「漢字はな。」

「あっ、わかった読めなかったんだ。」

「臨也。」


なんだか癪に来たから名前を呼んでやった。漢字くらい読める。大体大抵のやつはお前のこと折原としか呼ばないじゃねえか、と折原の方を向かずにデッキブラシを動かしながら答えた。


「えっ、誰かから聞いたの?」

「お前がりんやとかいうツラに見えるか、いざやだろ。」

「普通はいざやなんて読まないんだけど。おかしくない?なんで?」

「俺がいざやだと読めたからいざやで良いだろ。だいたい名前間違えられる方が嫌じゃねえのか?いいから口より手を動かせ終わらない。」


そのままゴシゴシとやっていると後ろから急に水が掛かってきた。体育着を着ていた筈がびしょ濡れになってしまい集めていたヘドロ塗れなプールの汚れも流されて散り散りになった。どうしてくれよう、と必死に保っていた糸がプツンと切れた。一発殴らないと気が済まない。勢いよく振り返るとデッキブラシで殴ろうとする折原がいた。それを同じようにデッキブラシで受け止めて弾く。


「やっぱり一緒に掃除とか出来ねえよなぁ。わざわざ俺が甲斐甲斐しい態度で臨んでやったってのになぁ!」


折原は得意の口を動かさずにただただデッキブラシで俺を殴りつけに来る。それでも避けたり、応戦する様子は同じで。一瞬の隙をついて、一発デッキブラシを頭に打ち込んでやった。折原はそれなりの距離吹っ飛んで倒れた。しばらく起き上がろうとしないのを見て、打ち所が悪くて死んだのかと確認する。近くまで寄ると足を引っ張られ同じように転んだ。


「てめっ!?まだ懲りねえか!」


折原のせいでびしょ濡れでヘドロ塗れになった俺はそいつの首根っこを掴んでこちらを向かせた。同じようにヘドロ塗れの顔から濡れた訳じゃない水分の塊があってギョッとした。なんで、どうして、意味がわからない。痛みでそれを零す柄になんて見えない。


「ねぇ、シズちゃん。名前呼んでよ。」


急に再び口が動き出した折原を見て、名前なんて呼びたくなかったが、それ以外何も言わなかった静かな折原に驚いて、そのまま口を開いた。


「いざや。」

「そう、俺の名前はおりはらいざやだよ。なんでかなぁ…、初めて名前を間違えられなかった相手が一番気に食わない奴だなんて。」


そんなの俺だってそうだ。一番気に食わない奴の名前を当ててしまった。漢字を見た時にそうとしか思えなかった。まるで最初からフリガナが振ってあるかのように見えた。そんなに泣くほど折原が悔しがるなら俺はこれから一生、臨也と呼んでやろう。そうしたら名前を俺に呼ばれる度に嫌な思い出として定着するかもしれない。そうして俺は臨也を抱きしめたのだ。デッキブラシの片方は無惨にもバキバキに折れてしまっていた。


「臨也、デッキブラシ別なの持ってこい。早くしないと日が暮れる。」
「それよりタオル持ってきた方がいいと思う。プールはあとホースで水掛ければいいよ。」


プールから上がった臨也は更衣室から探し出したタオルを投げてきた。それで全てを拭うともうヘドロ塗れの癖に流れた綺麗な水分の塊をもった臨也ではなく小憎たらしく。再び、口を早急に動かした。俺は出来るだけ我慢をした。





【ロストウォーター】



2010,11,28

来神。
そしてまさかの季節外れ過ぎてェ……
もっとラブラブにすれば良かったと本気で思ってますなんかこんなシリアスですみません爆発
蛇足:臨也は名前を初めて間違えられなかったから喜んで泣いてます。それが悔しくて静雄をデッキブラシで殴ろうとしました。つまり、照れ隠しです(真顔)

ポイしてくれて構わないんで!







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