監禁、と聞けば思い出すのは多分暗い鉄格子で足に鎖を付けられていたりするものでは無いのかと思う。でもこれは違う。手も足も自由でどこも何もされていない。敢えて言うなら目の前に突き出されたまるで犬の餌を入れる容器に瑞々しい雑草が大量に入っていることだ。それを少し確認してみるも路地に生えてそうなものと差し支えなかった。さて、どうしたらここから出ればいいかな。コートはある、ポケットにある携帯、財布、ナイフもある。この状態にした人は一体何が目的なのか。珍しい人もいるものだと笑った。だが、そういうことをした人間の顔を見たいなんていう好奇心は膨らむばかりだ。がたりと扉が開く音がして入って来たのが見慣れた人間でなんとなく予想が出来た中の1人でもあった。しかし、それは随分と低い確率のもので驚いたと言えば驚いた。


「あっ、臨也さん。起きていたんですか?」

「うん、帝人くん久しぶりだね。おはよう。」


オドオドした様子を携えた少年がこちらに向かって歩いてきて、何かに気づいたように雑草が入った餌入れに近いものを指差した。


「あれ、なんで臨也さん食べてくれないんですか?臨也さんにぴったりだと思ったんですけどね。」

「そんな困った顔で言われても何も反応出来ないんだけど。ところでさぁ、君はいつからこうなったの?」


何より疑問だったことを口にしてみた。だってとても楽しいじゃないか。こんなに早くこんな風になってたなんて知らなかったんだ。だから、多分これはかなりテンションが上がってしまう。人間の成長も退行も全て全て愛している俺からすれば変化は素晴らしい。


「僕は最初からこうでしたよ?非日常が大好きで大好きで仕方ないんです。臨也さんは知ってる筈ですよ。」


元からこういう思考があったんですと言いたげに話す。それを上手く説明出来ないのか言葉選びに苦労しているようだった。ただ、こんなことをするのは普通の人はやらない非日常だとカウントしたんだろう。帝人くんのこういう趣味は面白いんだけど、自分が標的だと少し面倒だ。


「でも帝人くんはそれを表にはっきり出すような子じゃなかったよね。心の中ではずっとくすぶっていたかもしれないけど、それを明るめに出すような常軌を逸した行動はしなかったし、更に言うなら出来なかった。何故なら帝人くんはその思考と嗜好以外は普通の高校生だからね。それなのに今回は行動に出た。そうなった真意を俺は聞きたいんだよね。」


すると帝人くんは目を細めながら薄いブルーの制服から俺が愛用しているようなナイフと同じような形状のものを取り出した。それをたどたどしい手つきでパチンと開くと俺に向けた。


「身体的に対抗手段が見つかったから僕が出来ない筈のことを決行した訳では無いんですが、臨也さんにならやはりナイフがいいと思ったんです。対抗手段として。その方が珍しく屈辱に歪む臨也さんが見られるんじゃないかって思うとぞくぞくしますね。」


答えになってないんじゃないかと思う。帝人くんは相変わらずにナイフを俺に突きつけたまま。俺は同じようにナイフをパチンと開いて帝人くんに突きつけた。彼が上手くナイフを扱えるとは思えない。ならば近くまで詰め寄って手を取れば良いだけのことだ。今回は残念ながら付き合ってあげられないなと思ったのでとりあえず脱出を考えてた。その筈が急に足が動かなくなった。どういうことだ。まるで足が床から動くのを拒否しているみたいに動かない。これは何か遣られたのかと瞬時に理解するが何が原因なのかがわからない。空調に何か匂いを感じなかった。それに空調ならば帝人くんもおかしくなる筈だ。雑草にはただ一瞥して確認しただけで触れてさえいない。何も飲んでいない。


「良かった、やっと臨也さん、ナイフ取り出してくれましたね。僕が向けても出してくれないのかと冷や冷やしましたよ、本当に。」


先程までとは違う純粋な笑顔にぞくりとした。まるでテストが良くて安心したかのようなそんな心からの笑顔だった。作り笑いなんかじゃないことがわかる。だからこそぞくりとした。


「考えられる可能性として俺のナイフに柄に下半身に利く麻酔薬を塗ってたってことかな?違和感を感じなかったんだけど帝人くんこれどこから手に入れたの?」

「そんな感じですね。大丈夫です、下半身付随にするほどのものじゃ無いですし。ちなみに入手方法は秘密と言うことで。それよりも、自分の得意とするナイフに遣られた気分はどうですか?」


最悪だね、とでも言うべきだろうか。帝人くんはそれを望んでいる。ここはご褒美にわざわざ喜ばせる言葉を言うのが良いのだろうか。ああ、どうでもいい。ノーコメントだ。これでしばらく帝人くんに付き合わなくてはならなくなった。いやいやと手を振ったりして上手く避けながらも足が動かないと不便だ。パチンとうまく手錠を填められた。なんか監禁に近くなってきたと思った。


「黙秘ですか。つまらないですよそれは。せっかくだから僕を喜ばせてくれてもいいのに。あ、はいこれ餌ですよ、臨也さん。二足歩行で歩けない犬のような臨也さんにはぴったりですよ。ねぇ、食べてくれますよね?」


その一言の後に頭を掴まれて雑草に押し付けられた。口の中に入った雑草が苦くて苦くて苦くて、この苦さならアレの苦さのが楽だとさえ思った。






2010,11,28

帝臨。

すみませんこれ祝う気あんのかってくらい残念な話で。いや多分この後いろいろアッーな方向に行くと思います。雑草食えよ!臨也さん!
おじいさん、誕生日おめでとうございました!!!

おじいさんに捧げます。ポイしてくれて構わないんで。








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