「ぱぱー」
千笑美が俺に駆け寄った。
「おほんよんで!!」
そう言って、千笑美がとびきりの笑顔で笑った。あーもう本当超可愛い。さすが俺となまえの子。
「ぱぱ?」
千笑美が俺の前で首を傾げた。
「お、ごめんなー。何のお話がいい?」
「これ!」
千笑美が俺に渡したのは、いないいないばぁ!と書かれた絵本。動物たちがページをめくる度いないいないばぁをする絵本だ。何度か読んでやったことがある。
「おーこれか。よし、千笑美こっち来い」
「うん!」
千笑美は俺の足の上に座った。あーもう本当可愛い。まだ1歳半だけど将来絶対可愛くなるのがもうわかる。親バカじゃねぇよ、別に。
最初のページを開き、動物を指さした。
「千笑美、この動物何だかわかるかー?」
「わんわん!」
千笑美は大きな目をきらきらさせて答えた。マジ可愛すぎんだろ。
「おー!よくわかったなぁ!」
俺が頭を撫でてやれば、ご満悦なご様子。
「いないいなーい」
「「ばぁ!!!」」
千笑美の声が被る。いたずらっ子のような笑みを浮かべ、俺の顔を見た。将来は、小悪魔か…。
そうやってページをめくっていけば、本は終わる。
「おしまい」
俺がそう言うと、千笑美は小さなもみじを合わせてぱちぱちと拍手した。
「ぱぱー?」
「ん?」
千笑美は俺の方に向き直り、俺に寄りかかった。甘え上手な娘である。
「ぱぱもいないいないばぁできる?」
千笑美が上目づかいで首を傾げて聞いてきた。
「そりゃあ…パパだぞ?パパに出来ないことなんかないぞ」
「本当に!?」
「おう!」
「ぱぱもいないいないばぁできるの!?」
「そりゃあもう!」
「やってやって!!ぱぱやって!!」
千笑美の瞳がきらきらと輝く。多少の嘘くらいはこんな目を見たらついてしまうに決まってる。俺だけじゃあないはずだ。
「よーし、見てろよ?」
「うん!」
とても楽しそうに笑う千笑美。これはもう俺は全身全霊のいないいないばぁをするしかない。
「いなぁい」
両手で顔を隠す。
「いなぁい」
顔の準備は万端だ。
「ばぁぁ!」
両手を離して全身全霊のいないいないばぁを炸裂。俺ここまで変顔に全力尽くしたことねぇわ。
が、千笑美は…。
「うぅ…」
眉を八の字にして今にも泣き出しそうな顔をした。そしてそんな時に。
ガチャ。
「…パパ何してるわけ?」
蓮のご登場。千笑美はもう我慢できなくなったみたいだった。
「にーにぃ!」
顔を真っ赤にして泣きながら、とたとたとおぼつかない足取りで蓮のもとに走り出した。
「?どうした?」
蓮は駆け寄る千笑美を抱きかかえて尋ねた。
「ぱぱ、や!!!」
「そうかそうか」
思いっ切り愛娘に俺を拒否され、なまえのいるキッチンに蓮が千笑美を連れ出す。
「ママー。パパが千笑美いじめたみたい」
「ちょっと待て!!それは誤解だ!」
蓮の言葉に、なまえのはぁ!?って声が聞こえた。これはまずい。かなりまずい。
『清志何やってんの!?』
「いや、待て誤解だ!」
「千笑美こんなに泣かせて!1歳相手に何やってんの!?」
なまえがガミガミと怒り、千笑美を蓮が宥める。あれ、父親って俺だっけ?もうわかんねーや。
『今日限りは千笑美に触んないでよね』
「え、いやそれは」
父親としてとても悲しいのだが。
『問答無用。部屋でご飯までおとなしくしてなさい!』
母親って…すげぇな。なまえ超怖ぇ。
俺は蓮に宥められ、キャッキャと笑う千笑美を見る。ああ、幸せそう。
可愛らしい子供たちを眺め、俺は素直にリビングを後にした。
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