※蓮が19歳、千笑美が14歳です
久しぶりに秀徳のスタメンで宮地家に集まっていた。蓮は大学のあとバイトで、千笑美は夜遅くまで部活だ。子供たちが育った分、皆も年をとった。
『そっかぁ〜緑間君も結婚するか〜』
私はお酒も飲んでいたし、少し饒舌に。皆もそんな感じだった。
「どんな子なんだ?」
大坪さんが尋ねる。
「それがこんな変人にはもったいないくらい可愛い子なんですよ!」
となぜか高尾くんが言った。見せろ!と清志や木村さんが言うが、嫌ですの一点張りの緑間君。こうやって見てるとあの頃と変わらないなーと思わず笑みがこぼれてくる。
「そういや蓮とか千笑美ちゃんって恋人の一人や二人いないんですか?」
…。
清志と私は黙りこむ。
「そんなことあったら宮地が大変だろ」
木村さんが笑った。
「バカヤロー!千笑美はパパと結婚するって言ったんだからな!」
何年前の話してるのかと高尾君が笑うと、清志が枝豆の殻を高尾君に投げた。
『蓮も女の子連れてきたりするのかなぁ…』
寂しくないと言えば、嘘になる。
「まぁ年頃だからな」
大坪さんが最後の一口であろうビールを飲んで缶を潰す。
蓮は年を重ねる度に清志に似て、今の蓮はあの頃の清志の生き写しだ。あれは妻であるとか息子であるとかそういう贔屓目なしにしても十二分にかっこいいと思う。
うう…と寂しがる。そうやってきっと清志みたいにピカピカに似合ったタキシードを着て、私たちのもとを巣立っていくのかと思うと涙が出てくる。
そんなとき。
「ただいまー」
愛娘のお帰りである。玄関の靴の多さに驚く声がした。
「お邪魔してましたー」
清志に枝豆の刑をくらった高尾君がニコッと笑えば、こんばんはと千笑美も挨拶をする。
すると、清志が立ち上がり、千笑美のもとによる。
「千笑美!お前彼氏とかいるのか!?」
「は?何で急に?」
「いいから!」
必死な清志に後ろで再び高尾君が吹き出す。
「まぁいなくもない…けど」
清志の顔が真っ青になった。
「…何でだよ〜。千笑美パパと結婚するって言ったじゃん〜!!!」
小さな子供のように言う清志は父親としてみたらとても恥ずかしい。
「まぁ初恋は緑間だったけどな」
木村さんが止めの一言を放つ。
「木村さんもやめてくださいよ!お父さんみたいに昔のこと!」
千笑美がそう言うと、悪い悪いと木村さんは言う。清志はへなへなと座り込んでいる。が。急に立ち上がる。
「おい!彼氏つれてこい!俺よりかっこよくて俺より頭よくて俺よりいい男じゃねぇと許さねぇ!!!!」
高尾君が吹き出すどころかギャハハハハと笑い出す。千笑美は眉間にシワを寄せて、清志の方を見る。
「お父さんには関係ないでしょ?」
千笑美は制服を着替えに自分の部屋へ向かった。
そんな後ろ姿を相手にされなかった清志が見つめる。でも千笑美は振り返ることもなく行ってしまった。
大坪さんがまぁ飲めよ、とビールを渡せば清志は拗ねた子供のように小さく頷いた。
あーやっぱり千笑美も大きくなったなーと思う。悪い男にひっかかっちゃだめよ、と思いながら私は缶を開けた。
『清志も元気だしなよー』
頭を撫でてあげると、私を清志が見る。
「だってなまえだって寂しいだろー」
『寂しいよー』
「蓮が彼女連れてきたら何かもやっとするだろー」
『そうかもねー』
よしよし、と撫でてあげると抱きついてくる。清志はお酒が入ると少し甘えん坊になるから私はまた始まった、とまた頭を撫でてあげた。
すると、またドアの開く音がした。蓮だ。
「ただいま。あ、お久しぶりです」
蓮が言った。
「蓮宮地さんそっくり!」
高尾君が爆笑する。大坪さんも木村さんも頷き、緑間君も目をまんまるくして見ている。
「嬉しくはないんですけど」
蓮は食卓につく。
「父さんどうしたの?」
『千笑美に彼氏いたのがショックだったんだって』
「それくらいいるだろ」
蓮の言葉に高尾君が尋ねる。
「蓮は彼女いないの?」
「いますよ。高校から」
なまえの肩がピクリと動いた。わかりやすい。
『蓮…』
私がそう言うと、蓮はあれ?と言った。
「おふくろには言わなかったっけ?」
『聞いてないよ!』
「え、言ったってば」
蓮が語り出す。
「俺が高2の時おふくろに言ったらそんなこと言わないでよ〜!蓮昔お母さんのこと大好きだったじゃない〜!!!って大騒ぎしたじゃん」
あ。何だか記憶があるようなないような…。
「なまえさん宮地さんそっくりっすね!!」
高尾君が爆笑した。
「泣きながら言うもんだから聞かれるまでは何も言わないでいようと思って」
『ちょっと蓮恥ずかしいからやめて!』
高尾君が大笑いして、その隣で緑間君が夫婦は似てくると言うからな、とか眼鏡をあげながら言った。
「まぁでも親父とおふくろもそのくらいから付き合ってんだろ?俺には何も言えねぇだろ」
そんなこと言いながら、食卓に並べられたおつまみにはしをのばす蓮にああそうやって巣立ってくのね…と清志の頭を撫でながら一人思った。
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