久しぶりに秀徳バスケ部の皆で集まったときのことだった。相変わらず皆仲良しで、高尾君は蓮と遊んでる。千笑美は私のお手伝い。
『ご飯出来たよー』
「待ってましたー!」
高尾君が言った。次々に席に皆が座る。そしていつもの席に千笑美も座る。ただいつもと違うのは、緑間君のズボンの裾を掴んで隣の席を指さしてる。
「真ちゃんはこーこ!!」
「わかったのだよ」
真ちゃんは千笑美に言われるがまま、そこに座る。こんな素振り見せたことないから、どうしたのかな、と私は思ったが別に緑間君も嫌ではないようなので、特に何も言わなかった。
食べ始め皆で話をしてる中、千笑美の行動に誰もが目を見開いた。
「真ちゃんあーん」
拙い箸づかいで緑間君の口元に千笑美はご飯を近づけた。座高の差で緑間君の首くらいまでしか届いてないけど。
「…どうしたのだよ」
「真ちゃん、ヤなの?」
千笑美は食べてくれない緑間君を見て、網膜に薄く涙の膜を張った。
「そういうこっちゃないのだよ!」
慌てて緑間君がそう言えば千笑美はまたあーん、と言った。緑間君は眉間に皺を寄せないよう必死にこらえているのだろう。千笑美が泣き出しかねないから。物凄い握り拳に力を込めて、千笑美が出したご飯を口に入れた。
「…ブフォ!!!」
ついに耐えきれなかった高尾君が噴き出した。
「…高尾……貴様」
「いや、今のは俺悪くないって!木村さん我慢して震えてんじゃん!ホラ!!」
高尾君が木村さんを指さすが、緑間君には高尾君しか見えてないようで。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
「死ね」
「緑間、食事中に立つな。行儀が悪い」
喧嘩を始めそうな二人に大坪さんが注意する。
『千笑美も真ちゃんは照れ屋だからそんなことしちゃダメでしょ?』
「てれや?」
『そうだよ。真ちゃん顔真っ赤にしちゃうから』
「そうなんだ?」
『うん』
「なまえさんもやめて下さい!」
緑間君が私に言った。ほら、照れ屋。
「でもね、」
千笑美が言った。
『うん』
「千笑美は真ちゃんのことすきだからあーんしてあげるの!」
…。
食卓に沈黙。そして、一人の方からプチッ、と何か切れたような音がした。清志から。
『え?好きなの?真ちゃんが?』
「うん!!千笑美真ちゃんと結婚するー」
本当に可愛らしい笑顔。なのだが。
「な、何言ってるのだよ!」
真ちゃんは顔を真っ赤にして怒る。
「真ちゃん、千笑美のこときらい?」
千笑美はまた泣きそうな顔をして緑間君に首を傾げた。
「ぐっ…」
その顔を見れば何も言えなくなる緑間君。千笑美はなんて罪な娘なんだか。
「きらい?」
「…嫌いじゃないのだよ」
緑間君がそう言うと、千笑美は目をきらきらと輝かせて、立ち尽くしている緑間君の足に抱きついた。
と、同時に我慢できなくなった清志が立ち上がった。
「緑間ァ!!!てめぇ俺の娘にいつ手ェ出しやがった!!!」
「一度も出したことなどないのだよ!」
清志の怒りを傍らに。
「ギャハハハハ!真ちゃんモテモテ!」
高尾君が爆笑。
「そしたら俺は真ちゃんのお兄ちゃんになるの?何か不思議ー」
他人事のような蓮。
「千笑美ちゃん離れるのだよ!」
「真ちゃん、千笑美のこときらい?」
千笑美がまた泣きそうな顔をした。
「てめぇ泣かせやがって!」
「じゃどうしろと言うのだよ!」
「あーもう絶対今回だけはマジ無理。木村軽トラァ!!!」
「家にある」
「なまえ包丁!」
『清志、落ち着きなよ。そのうちいつかは千笑美だって嫁ぐんだから』
「いや、緑間と高尾んとこにだけは絶対嫁がせてたまるか!」
清志がついに素手のまま、緑間君を追いかけ始める。緑間君は足にひっつく千笑美を抱きかかえて清志から逃げる。
「てめぇコラ!俺の娘返せ!!」
「もらってないのだよ!」
「ギャハハハハ!そのまま駆け落ちしちゃえよ!!」
緑間君と清志の追いかけっこ。爆笑する高尾君。私はため息をついた。そして大坪さんと木村さんと蓮と夕飯を食べ続けた。
「宮地、必死だな」
『本当に親バカなんだから…』
「お父さん…恥ずかしい」
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