Happy Birthday きよ!(宮地)



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『大坪くんどうしよう…』

「そこまで考える必要はないと思うぞ」

教室で大坪くんの前の席でがっくりとうなだれているのは私だ。今日はきよの誕生日。ちゃんとお祝いしよう、そう思ってたのに。

昨日のことだった。

『きよ明日誕生日だね』

「ん」

暗い帰り道を一緒に帰っていて。私は明日も一緒に帰ろうって誘うつもりだった。きよはバスケ部でもともと帰りが遅いのにそこから自主練まで残ってやるから帰る頃にはもう夜も大分更けてしまっているのだ。それを気遣ってか、きよはバスケ部の部活が早く終わるときしか一緒に帰ってくれない。良いから早く帰れ、っていつも言われてしまうのだ。

でも明日は誕生日だし、私もきよと帰りたいと純粋に思ったので明日くらいは残って待ってよう、と思っていることを伝えると。

「いいから帰ってろよ」

なんて一言で終わらせられて。正直ショックだった。その結果。

『きよのバカ!』

なんて言って走り去ってしまったのだ。もうちょっと食い下がればきよは許してくれただろうか。でも後悔先に立たずである。

『大坪くんしか頼れる人はいないんだよ〜』

木村くんとも友達だけどきよは何かと木村木村〜って木村くんのとこにいることが多い。もちろん大坪くんとも仲いいんだけど。私はなくなりかけのイチゴミルクをちゅーちゅー吸ってため息をついた。

「宮地との仲直りは俺がしてやれることじゃないからな。とりあえず放課後体育館に来たらどうだ?」

校舎はバスケ部の練習終了と同時に閉まる。きよを待つのは結局体育館になるのだ。私は大坪くんの言葉通りに動くことを決めた。ただはじめから行くときよにあってしまう可能性があるので、少ししてから行くことにした。


体育館に入ると、外よりずっと暑く感じた。皆の熱気がすごくて、ずいぶん暑い。きよはよく探さなくてとすぐに見つかる。髪色ですぐにわかってしまうのだ。私はその姿を眺める。

久しぶりにきよが部活してるの見たなー。

Tシャツで汗をぬぐう姿も、シュートするところも。後輩に怒ってるところも。全部私の前のきよとはどこか違くて。寂しいような新しいきよを見つけたような。いつもなんだかわからない気持ちになる。でも、きよがバスケしているところを見るのは大好きだった。


全体の部活が終わったようで。それぞれがバラバラに散り始めると、きよは一番最初に私のところに来た。

『きよ…』

そう名前を呼べばきよは何も言わず私の頭にチョップした。

『ちょ!痛っ!』

「何でお前ここにいるんだよ?」

ニコニコと笑顔で見下ろしてるのになぜかものすごく怖い。

『だからきよの誕生日だし一緒に帰りたかったんだっふぇばぁ』

言葉の途中できよに頬をつままれた。

「せめて部活来るなら俺に一言言え。大坪だな?ん?大坪だろこんなこと提案したのは?」

すべてお見通しらしい。私は頷くと、きよは小さくため息をついて。

「少し待ってろ。着替えてくる」

『え?自主練は?』

「なまえが帰んの遅くなんだろ。いいからおとなしく待ってろ」

そう言うきよに、私はただただ頷いた。なんとか許してはもらえたようではあった。

きよは頷いた私を見てぽんぽんと私の頭を撫でてコートに戻っていってしまった。

コートの端にいた大坪くんと目があって、微笑まれたので、私も笑い返した。本当に、そこまで悩まなくてもよかったみたい。

きよが見えなくなると、見たことある人が。

「なまえさんこんにちはー!」

高尾くんだ。

『高尾くんも練習お疲れさま』

「本当疲れましたよー」

だるそうにがっくりとうなだれる高尾くん。私はそんな様子を見て笑う。すると。がしっ。

「おい高尾…お前何ちょっかいだしてんだ?轢くぞ?」

きよが高尾くんの頭をつかんでそう言った。

「痛い!宮地さん痛いです!割れますから!頭!」

きよは高尾くんの頭を離すと、大坪くんや木村くんにお別れを言って、こっちに来た。

「帰んぞ」

きよのその言葉に私は笑って頷いた。




体育館を出れば、もう外は真っ暗だった。

『だいぶ寒くなったね』

もう冬だ。私もきよもカーディガンにマフラーと防寒具はしっかり身に付けていた。手を擦っていると、きよが私の右手を拐う。しっかり握られたその手に笑みは自然とこぼれて。

「お前これから部活来るときはせめて絶対俺には言えよ」

『うん。でもきよ全然動揺とかしてなかったじゃん』

内心動揺しまくっていたのは宮地自身と計らった大坪しか知らないだろう。
それに宮地の彼女だというのは周知の事実であるが、なまえが来るとさっきみたいに高尾とかがちょっかいかけるのが宮地がものすごく気に入らないのだ。やきもちなのはわかっているが、それを口に出すつもりもない。そしてなまえはそれに気づきもしない。

「いいから言えよ」

『うん。あ、きよ。プレゼント渡すね』

鞄から出した可愛らしい袋に包まれたもの。

『何が嬉しいかとかあまりわからなかったの。だからありきたりなものになっちゃったけど…』

宮地がそれを受けとる。

「開けていい?」

なまえはうん、と小さく頷いた。中から出てきたのはリストバンドとカップケーキ。しかもカップケーキは手作りだ。

『手作りはちょっと重いとかあるかなって思ったんだけど…』

「そんなことねぇよ」

嬉しい、と独り言のようにきよが呟いた。私はその一言が聞けたことが何よりも幸せで。

『へへ、よかった』

その一言でものすごく笑顔になれるのだ。

『きよ、誕生日おめでとう。18歳だね』

「おう…俺結婚できるようになったな」

何て反応していいかわからない言葉。私はきよの言葉を待ったが、きよは私の顔を見て笑った。

「んな顔すんなよ」

ケラケラ笑うきよに私は怒る。

『そんなに笑わないでよー!』

「悪い悪い」

そういいながら笑うきよは私の頭をまた撫でて。まっすぐ私の方を見たのだ。

「結婚しようとか軽くは言えねぇけどな。でも俺はなまえと一緒にいたいからお前が嫌じゃなければ一緒にいような」

きよが珍しくそんなことを言うものだから。月明かりに照らされた顔は少し赤らんでいて。私はきっと間抜けな顔をしていただろうが、きよの言葉に頷くしかできなかった。

きよの手が肩におかれて、触れる唇。ここが公道だなんて忘れるほどの幸せ。きよはそのまままた私の手を握って歩き始めたのだった。



◎あとがき
みやたん!リターンズに参加させていただきました。宮地さん久しぶりに書いたけどやっぱり難しいですね〜。宮地さんこのあと自分が言ったことの重大さに気づいて家帰ってから頭抱えればいい。でもそう思ってることは事実だったり。あと大坪さんはこの日の朝練で宮地さんに「大坪どうしよー。俺なまえ怒らせちまった…」って相談されてても可愛いですね。最後までお付き合いありがとうございました。主催者のここさん、読んでくださった皆さん本当にありがとうございました!

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