灰崎の片想い
『ねぇどうしてあの人は私を見てくれないのかな』
感情が読めないような単調な声で、なまえが言う。
「知るかよ、ンなの」
こいつは俺の唯一の身体の関係を持っていない女友達だ。そう思ってるのはあっちだけだがな。
『あんな女いなくなればいいのに』
なまえには好きな人がいるんだと。でもそいつには彼女がいる。いつも一緒にいる女がいる。
汚い感情ばっかり、となまえは笑う。本当は笑いたい訳じゃないくせに、こいつはいつも笑う。
「そいつにいつまでこだわってんだよ。あいつら多分仲いいしうまくいけば結婚するぞ」
そのくらい、こいつの好きな奴のカップルはうまくいっていた。それでもなまえはずっと思い続けてて。マジバカじゃねーの。報われないっていい加減気づけよ。
『うるさいな』
「俺にしとけよ」
いつもと同じように俺はこの台詞をはく。でもなまえはやーだ、なんていって飲みかけのペットボトルを空にする。
『私があいつじゃなきゃダメなの一番よく知ってるでしょ?』
そう言って悲しそうに笑うなまえは俺の気持ちに気づいているのだろうか。他の女なら別に手にいれてきた。この女にこだわらなければすぐに女もまたできる。それでもこの女のことしか考えられなくなるくらいには俺にも人を想う気持ちがあったらしい。
めちゃくちゃにしてぇけど、俺が触れれば人前で泣くこともできねえこの女はきっと壊れてしまうから、俺はまた冗談混じりにお決まりの台詞を吐くことしかできない。
「いいから、俺にしとけって」
◎あとがき
「ブレス」 RADWIMPS
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