手にしたバスケットボールは冷たくて、目の前で俺を見ているテツの視線にも以前のような熱はなかった。

嗚呼、多分、駄目なんだな、と頭の片隅で理解するもう一人の自分がいる。

触れ合っていたのは少し前のことだったはずのに、もう二度とあの頃みたいには戻れないのがテツの出す雰囲気から伝わってくる。





淋しいのか、と訊かれれば、そうかもしれない。

けれど、苦しいのか、と訊かれれば、そうではない。





それでも行き場のない感情を吐露することが上手く出来ず、バスケをその捌け口にしていると


「…もう練習しないのかと思ってました」


なんて見当違いなことを言われたので、別にバスケやめたワケじゃねぇからな、と呟けば、そうですよね、と返ってきた。

いつものように淡々と喋るテツに、それにやめたのはお前の方だろ、とは言えなくて、吐き出しそうになった暴言をぐっと飲み込み、離れた所からシュートを打つ。

前は話しても話しても足りないぐらいだったはずのに、今はこのぎこちない会話もすぐに途切れ、後には何も続かない。

ただ、ネットをくぐって落ちたボールが床に弾む音だけが虚しく響いていて、二人きりの体育館はやけに広く感じる。

段々と居たたまれない気分になってきたので、どうせこれが最後だからとテツの唇に触れるだけのキスをした。

テツはそれを拒否することも肯定することもしなかったけれど、そこから先はなんとなく、出来なかった。


「…じゃあな」


「はい…」


唇を離し、別れの言葉を口にする。

そうして俺の中でふっと湧いていたひとつ感情は、人知れず見えない底へ深く深く沈んでいった。


















空色メロディー様に提出。
素敵な企画に参加させていただき、ありがとうございました!
2010.1.2 乍東




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