現実主義なんです



 なんやかんやであれから2年が経過しました。現在小学六年生。皆さんお察しの通りそうです、中学受験の時期です。……なーんてことは置いておいて、取り敢えず記憶が戻ってどうしようかと散々迷った結果、諦めることにしました。
 どうやら私は奴の憧れていた“違う世界”に来たというか転生した訳だけど、しちゃったものはしちゃったんだし仕方ないかと思ったから。戻れるのなら戻りたいっていう気持ちはある。だけど方法が分からないし、過去にもう一度階段から落ちたら戻れるかなあ。なんて考えたこともあったけど痛いの嫌だしこれでまた死んだら洒落にならないので速攻で止めた。
 それにあちらで過ごした20年間近い記憶があるのも確かだが、それは逆にここの世界で過ごしてきた10年余りの記憶も勿論あるということだ。幸いなことにここは戦いのない世界みたいだし、何より愛着もある。だったらここで平凡に慎ましく新しい“人生”を送ってみようという答えに行きついた。
 ……そういえばこんな話昔読んだ本にあった気がする。死んだ主人公が天国の抽選に当たってもう一度人生をやり直すという話だ。そんなおとぎ話みたいなこと本当にあるんだなー何て考えていたらいつの間にやら家に着いていた。

「ただいまー」

 リビングからお帰りと声が聞こえちょっと安心する。それと同時に“あちらの世界”の両親や友人はどうなったのだろう、なんて思ったりもした。……出来ることなら私のことを綺麗さっぱり記憶から消去されていたらいいななんて思う。大切な人たちの悲しそうな顔は見たくない。そう思ったから。
 勉強机にランドセルを置き、ベットに寝転んだ。うーん、なんかもやもやする。
ベットの上で蹲って今後……つまり将来のことや今までのことを考えていたら急にテンションが落ちてきた。あ、これが思春期っていうやつか。とかアホな事を考えていたら下から母さんの呼ぶ声が聞こえてくる。

「今日お父さん遅いし、夕飯面倒臭いから外で食べに行くわよー」

 そういえばそんなこと言ってたっけと今朝の出来事を思い出し返事をすると私は重たい体を無理やり起こした。何食べるんだろー。何て考えながらふらふらと覚束ない足取りでリビングに行けば「シャキッとせい」と尻を叩かれた。地味に痛い。

「ねえ、進路の事なんだけどさ」
「はいはい。後でご飯食べながら聞いてあげるから」
 
 靴を選ぶ母さんの背中に投げかければ適当に返された答えに思わず眉を寄せた。玄関にある鏡を見れば苦虫を潰したような表情を浮かべる自分の顔が写っていて、諦めに近い感情が浮かんでくる。
 開いた玄関スペースに置いてあったサンダルを適当に履いて外に出れば、満面の笑みを浮かべた黄色いでっかい犬がいた。

「玲ー!寿司食べに行くッスよ!」
(……なんか耳と尻尾が見えた気がしたんだけど、気のせい?)

2012/08/13

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