目潰しカメラ



「玲ちゃん、これから付き合って欲しい所があるの!!」

 そう小母さんに頼まれて連れていかれた所はよく分からないビルだった。……部活の無い日曜日、ゲームをして幸せな休日を過ごしていた所に突然現れたかと思えば先程のようなことを言われしまい結果的に私の休日は呆気なく終了することになってしまう。何だかんだで叔母さんのお願いを断る訳にもいかず(良心が痛んだのと母さんに脅されてしまったのだ)気が付いたら目的地に着いていた、という訳。本当に意味分かりません……。
 小母さんがビルの中に入ってきた途端受付の綺麗なお姉さんが笑顔で迎えてくれた。綺麗なお姉さんにもそうだが小母さんに対する対応にも若干ビビりながら、入館パスポートらしきものを貰ってどこかに連れて行かれる。前で楽しそうに話すお姉さんと小母さんを見ていたら何だか複雑な気持ちになってきた。こ、これ私いる必要あるのか……?

「どうぞ、入ってくださいー」

 お姉さんの声に促され案内された部屋へと入った瞬間光ったフラッシュに思わず目を瞑ってしまう。び、吃驚した、と声を漏らした私に「最初はびっくりするよねー」なんて小母さんも笑っていた。
 ……改めて室内を見てみると、どうやらここは撮影スタジオらしいことが分かった。部屋の半分が白い背景に埋め尽くされていてそこだけ煌々とした白い照明に照らされている。その光の量に隅にいる私でさえ熱く感じるくらいだから、あの場に入ったらどんだけ熱いのだろう、なんて思ってしまった。

「いいよー、こっちに視線頂戴ー」

 パシャパシャと目潰しの原因を作ったらしきカメラを握る男の人の声で今撮影してるのかーなんて思ったのと同時に何だか嫌な予感がしてくる。隣にいた小母さんに視線を向ければ、それはもう嬉しそうな顔で見つめ返されてしまった。う、う、うわあああああ嵌められたああああああ!!
 渋る私を急かすように背中を押してくる小母さんの手に内心泣きながらそっと前に出て撮られている人物を見れば……やはりと言うべきか、涼太の姿があった。
 学校などで見せる表情ではない、雑誌でみる“きせりょ”としての表情がそこにはあって何だか変な気持ちになってしまう。まあ……格好いいんだけど、ね。

「……っ!!」
「あ、やべっ」

 こっそり見ている筈だったのに気が付けば結構前の方まで来ていたらしい。不意に涼太と目があった瞬間、涼太の顔がモデルの顔から普段見る笑顔に変わった。同時にフラッシュが光り、反射的に目を閉じてしまう。
 温かい感触と共に目を空ければ、目の前にはドアップの涼太の顔があり思わず声を上げてしまった。撮影を放棄してこっちに駆け寄って来たらしい。仕事しろ、仕事!!

「玲がいるなんてビックリしたッスよー!!でも来てくれて嬉しい!!」
「ちょ、涼太、離して苦し……」

 加減なしに抱き着いてグリグリと頭を擦り付けてくる涼太の背中を叩き、離すように促すが本人は全く聞く素振りが無い。というか聞いてない。
 涼太の変わりっぷりにスタッフの人たちも驚いているのか私たちを見ながら困っている様だった。す、すいません……本当すいません!!

「いい加減離れなさいっ」

 脇腹をド突き漸く離れた涼太に今度は腕をがっちりホールドされながらスタッフさんたちに頭を下げていると、カメラマンさんがカメラのデータを見ながら声を上げた。
 なんだなんだ、と嬉々とした様子で彼が持ってきたカメラを覗き込むスタッフさんたちから次々に歓声が上がることにも私は勿論涼太さえもビビりながら、ニコニコと笑うカメラマンさんにデータを見せて貰えばそこには普段見る涼太の笑顔があった。

「涼太君、こんな笑顔も出来るんだねー!是非これをもう一枚……いや、普段からして貰いたいねえー」
「えーそうは言われてもこれ殆ど無意識だし、玲が居たの見えたから自然と出ただけッスから……玲どうしよう?」
「いや、知らんがな」

 酷いッスよ!とまた抱き着いてくる涼太から離れようとジタバタ暴れていたら、カメラマンに肩を掴まれ笑顔を向けられる。あ、ヤバい、また嫌な予感がする。

「玲ちゃん、モデルやってみない?」
「嫌です!!」

 ――そんなこんなであの後一悶着あったのだが、スタッフさん総出の説得&叔母さん参戦で後姿だけの出演という形で外での撮影を了承することになってしまった。“デートの待ち合わせで彼女を待つ彼氏”とかいうシーンで約束通り後姿だけしか映らないのに化粧やら衣装やら色々揉みくちゃにされ、挙句何回も彼氏に駆け寄る彼女ということで走らされ死に目を見ることになってしまった。
 ……苦労したお陰なのか、普段見ない“きせりょ”の表情が好評だったらしく雑誌は普段よりも倍の部数を売り上げることが出来たらしい。嬉しい反面、雑誌を何部も買い占める涼太や小母さんに対して口止めが大変だったり、また撮影に参加しないかというお誘いも来ていて正直胃が痛くなったのは、また別の話だ。

―――
珍しく長くなったお話。
このモデルシリーズは正直言うとまだ続いたりしてます。書くかは微妙だけど。

2012/12/09

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