人事を尽くす、ということ



 しん、と静まり返る体育館にゴールポストとバスケットボールのぶつかる音が響く。直後フィールドに落ちバウンドしたボールを受け止た男――緑間 真太郎は後方のベンチに座る人物へと視線を向け口を開いた。

「白村、いつまで残っているつもりなのだよ」

 棘のある口調で尋ねる彼に対し玲は一心不乱に何かをノートへと書き込んでいた手を止め、苦笑を浮かべる。他者に見られていることであまり集中が出来ないのだろう、普段より険しい目をする彼にどうしたものかと思いながら困ったように頬を掻いた。

「うーん、緑間くんが練習終わるまでかなー」
「……」

 無言で睨みつけてくる緑間と玲の間に気まずい雰囲気が流れる。が、何を思ったかボールを脇に抱え大股で近付いてきた彼の迫力に圧され玲は一瞬逃げ腰になるが、残っていると言ってしまった手前逃げることも出来ず彼女は目の前に立つ長身の彼を見上げる形になってしまった。

「……何を書いているのだよ?」

 彼の視線の先にあるのは膝の上に置かれた玲が先程まで書き込みをしていたノートだ。今更隠す訳にもいかず彼女が素直に渡せば、緑間はパラパラとページを捲り中を見始める。
 ――中にはバスケに関する知識や日々の練習メニュー内容が細かに書かれていた。膨大な量にもだが、何より彼を驚かせたのはのはレギュラー陣の個々のバスケスキルが書かれていたことだ。得意のテクニックや武器などは勿論、プレイ時の細かな癖といったものまで詳細に書かれている。緑間自身でも意識の無かった癖まであり、そのあまりの完成度に流石の彼を目を丸くしてしまう程だった。

「赤司くんにレギュラーの練習を見て気付いたこととか感じたこと、何でも書いてとにかく観察しろって言われてね。これで良いのかちょっと分からないのだけど……」

 赤司から直接玲の“能力”を話されている分緑間には彼の意図が分かる行為だが、口調からしてどうやら彼女にはまだ話されていないらしい。まだ入部して僅かであり、能力の開花がされていない状態であるのにも関わらずこれ程の観察力を持つこともそうだが、それを自覚せず何事もなさそうに話す玲にも驚いてしまう。

「……お前も人事を尽くしているのだな」

 入部届の件では散々嫌がっていたのにな、と言いながらノートを返してきた緑間に「耳が痛いわー」と苦笑しながら玲は受け取ったノートの角で自身の肩を叩いた。
 こういった受け答えもそうだが、黄瀬や青峰といった人物達と接してる姿を見ているととても彼女があのノートを書いたようには見えない。……だが、だからこそ彼女が几帳面で真面目な性格だということが、このノートを見て緑間は改めて認知することが出来た。

「確かに不本意ながら入部しちゃった訳だけど、だからといっていい加減にして良いものではないでしょ?私は本気でやっている人を馬鹿にはしたくない。……特に緑間くんは自分に凄い制限をかけてまで取り組んでる。それを変だと言う人はいるけど私は純粋に尊敬するから、だから、私もそれ相応の努力はする。それが礼儀だと思うから」

 普段見せない真剣な表情に緑間も言葉を失ってしまう。再び広がった沈黙に耐え切れなくなったのか顔を真っ赤にさせながら突然玲が声を上げ蹲ってしまった。
 恥ずかしいーと頭を抱える彼女の頭を徐に緑間の大きな手が軽く叩けば、思わぬ反応に彼女も赤くなった顔も忘れ彼を見上げる。ぶつかった視線に緑間もハッと我に返った様子で慌てて手を引っ込めた。

「……お汁粉」
「えっ?」
「もう少し練習したら帰る、だから後で一緒にお汁粉を買いに行くのだよ」

 赤くなった顔を隠すようにゴールへと戻っていった緑間の後姿に玲も小さく笑い、嬉しそうに頷いた。

―――
不器用なまでに努力をする緑間くんを白村さんも好感を持っているし、今回の件で緑間くんも改めて白村さんが努力の子だと分かって仲良くなった感じ。
何だかんだで似た者同士です、2人は(笑)

2012/12/01

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -