鬼ごっこ開始!



「玲ちゃん、女バス入らない?」

 なんて悪魔の一言を貰ったのが私の平穏な中学校生活を締めくくる最後の瞬間だった。……話は午前中にあった体育まで遡ることになる。授業で行ったバスケでミニゲームを行うことになったのだがその際に女子バスケ部員(レギュラー)とチームを組むことになり試合を行ったところ先程のような誘いを掛けられたのだ。どうやら私は彼女の御眼鏡に適ったらしい。
 以前よりもバスケの技術が上がったのはきっと黒子くんと青峰くんのお陰だろうと思う。伊達に週に何回もストバスもどきをしている訳ではないということだ。あの二人……というか主に青峰くんとプレイしていれば嫌でも上達しない訳がない。いや寧ろしないと殺される。
 よくもまあここまで運動音痴の自分が彼らに着いて来れるようになったなあ、としみじみ思いながらも第三者の、ましてや女バスのレギュラーから認められたことに純粋に喜びを感じてもいて、思わず顔が緩み体験入部してみない?という誘いにほいほい乗りそうになってしまった。が、それはやや興奮気味のさつきちゃんに断固反対を食らい話がうやむやになってしまう。改めて考えてみると生徒会の仕事も忙しいのに部活何てやってる暇ないわ、と思いさつきちゃんに感謝しつつ午後の授業を受けたのだった。……ここまでは良い、だが問題はこの後からだった。

「やあ、白村。この後暇だよな?」

 HR終了早々に現れた赤い魔王もとい、赤司くんの笑顔にどっと冷や汗が出てくる。あれ、今日部活あるんじゃなかったっけ……?どうしてこんな所にいるんだ?なんてグルグル頭の中で考えながら引き攣った笑顔を返し、この場を切り抜けようと適当な理由を考え逃げることを試みてみることにした。

「い、いやあの今日は生徒会が……」
「顧問から今日は生徒会はないと聞きましたよ」

 背後から聞こえてきた声に思わず悲鳴を上げ振り向けば背後に立つ黒子くんの姿。どどどどうしてそこにいるんだよ!!なんて焦りながら周りをよく見ればレギュラー全員の姿があった。おまけにさつきちゃんまでいる。
 ……これでお分かりいただけただろう。完全に私、包囲されました。

「玲ちゃんにお願いしたいことがあるの、だから一緒に部室まで来てもらっても良いかな?」

 有無を言わさず手を握ってきたさつきちゃんの笑顔がこれほど憎らしく見えたのは今日が初めてだろう。逃がすまいとしての行為か繋がれた手に引っ張られながら前を歩くレギュラー陣を見つめ、これ以上関わったらヤバいと本能的に感じた私は気が付いたら彼女の手を振り払い、反対方面へと全力で走っていた。

「ごめん、さつきちゃん!」
「玲ちゃん!?」

 肉食獣に追われる小動物の気持ちってこんな感じなのかな、なんてアホみたいなことを考えながら廊下を走っていると背後からさつきちゃんの声を聞き漸く気付いたらしい赤司くんの追え!という鋭い指示の声が聞こえてくる。
 このままじゃ殺される!と思いながら半泣き状態で階段を駆け下りる私を追う足音の数に恐怖のあまり上げた自分の悲鳴を合図に、長い長い鬼ごっこが始まったのだった――。

2012/10/08

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -