やっぱ優しくない!



 会長お疲れ様でーす、という後輩たちの明るい声に思わず元気だなあと感心してしまう。こっちは会議のせいでクタクタだよー。なんて愚痴ったらケラケラと可笑しそうに笑われてしまった。昔から感じてはいるが本当若い子って元気が良すぎる。……周りにエネルギッシュな子が多すぎるせいで相変わらず付いて行けない。
 深いため息をついて未だに笑う後輩たちに愛の制裁を加えながら私はテーブルの上に乱雑に置かれた書類を片付け始めることにした。

「おー会長、お疲れさん」
「お疲れ様です。先生もお忙しい中有難うございました」

 のんびりとした口調で話しかけてきたのは私が生徒会に入るきっかけを作った元担任だ。生徒会の面倒を見てくれているのと同時に男子バスケ部の顧問を持っている先生は忙しいのにも関わらず態々この日の為に来てくれたらしい。普段は(仕事量に)殺意しか湧かないが、今日だけは先生の気遣いがとても嬉しく感じる。
 この辺りで何となく察して頂けたかと思うが……今日は生徒会長に就任して初の部長会だったのだ。1年の頃から副会長として参加はしていたが、学校側が部活動に力を入れているお陰で大抵の部長会は終始ピリピリとしていた思い出しかない。まあ無理もないのは重々承知しているのだが。
 使用する練習場所の取り合いやら部費、備品などの受注。より良い練習を行う為にも各々の部活が要求したいことは沢山あるのだ。基本的には穏やかな会議だが水面下では恐ろしいことになっており挙句には顧問たちも出てくる始末でその度に板挟みにされた前会長が胃を痛めていた記憶があるので私からすれば軽いトラウマになっている。
 いざ自分がその“魔の会議”の代表として出なくては行けないことに今日は朝から胃が痛くて仕方なかったのだが、予想に反して会議は無事終了してホッとしていた。……いや、呆気にとられたと言っても良いのかもしてないが。
 そんな訳で朝から死刑宣告よろしく青い顔をしていた私をみかねて先生が顔を出しに来てくれたのだ。本当にありがたい。

「これからバスケ部の方に行かれるんですか?」
「いや、急に会議が入っちまってなあ。……あ、お前もう用事ないだろ?これ赤司に渡しておいてくれ」

 ついでに練習見に行ってこい!と良い笑顔で書類を渡してきた先生に私は笑みを貼り付けて無言に徹する。これもこのフリーダムは何言っても無駄だということをこの1年間で学んだ上での対処法だ。絶対行くか、つか何で部長会の時渡さねえんだよと内心苛々しながら視線は落とさず、手だけが再び書類整理をし始める。
 ――赤司君も丁度私が部長会に参加し始めた頃からバスケ部の主将として参加をしている。1年で主将なんて凄いな、と思った反面やっぱりこの人ただ者じゃないと恐れたのが懐かしい。
 クラスが変って久々に顔を合わせたが……そういえば彼からも会議終了直後に今日部活を見に来ないかと誘われた。怖かったけど、片付けで時間が空いたら行くなどと適当にはぐらかして逃げたのに先生にまで根回しするなんて本当どんな権力持っているんだ彼は……。しかも最近さつきちゃんまで練習に連れて行こうとしてくるし、バスケ部本当怖すぎる。

「会長ー、誰か書類忘れていきましたよ!」

 先生との無言の攻防戦は会計さんから声で一時休戦となった。嫌な予感を覚えながらどこの席だと尋ねれば男子バスケ部ですー、なんて予想通りの答えに脱力して思わず机に突っ伏してしまった。うわ、最悪だわ……。

「赤司が会議の書類を忘れるなんて珍しいなー、これは明日雨が降るかも」
「……お願いですからちょっと黙ってください」

 はっはっは、と態と過ぎるほど朗らかに笑う先生に胃が痛くなってくる。ギリギリと奥歯を噛みしめて睨みつけても生徒会メンバー達がビビるだけで先生は全く気にしていないようだった。そのまま強引に書類と自分の鞄を握らされ、教室から追い出されてしまう。
 先生の後ろで「片付けは私達で終わらせておきますから……」と気遣わしげに言ってきた役員の子達の優しさに内心泣きつつ、無情にも閉まってしまった扉を見つめ私は溜息をついた。

「腹括るしかない、か……」

2012/08/22

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