たまには真面目に考えます



 ああ眠い、そう思いながら欠伸を噛みしめる。昼休み明けの授業というものは実に辛い。腹の皮が突っ張れば目の皮が弛む、という言葉がある通り満腹になると自然に眠くなるものだ。比較的好きな古典文学の授業なのに今日だけは先生の声が心地の良い子守唄の様に聞こえてきた位だから、相当なのだろうと思う。……ああやっぱり昨日の生徒会のせいだろうか。家に持って帰らなければいけない程の量を残していた会長と先生に軽く殺意が芽生える。
 暫くは先生の解説が続きそうだし少し寝てしまおうかと頬杖をついた私は一瞬瞼を閉じる。が、それは直ぐに終わってしまった。この静かな教室と相反し、窓ガラス越しではあるが興奮したような声が聞こえる校庭へと視線を向けたからだ。うるせえな、と思わず舌打ちを打ちながら下を覗けばそこには違うクラスの男子生徒たちがリフティングの試験を受けている所だった。
 結構終盤なのだろう、残っているのは黒髪の男子と綺麗な金色の髪の生徒。見間違うはずもない……涼太だ。確か相手はサッカー部のエースだった気がする(と友人から聞いた)のだが、やや焦った様な顔をしているように見えた。しかも涼太と違ってどこかバランスが悪い気もする。そこで私はまたかーと目立たないように小さく溜息をついた。理由は勿論、涼太がつまらなさそうな顔をしてリフティングをしていたから。

 ――基本的に涼太は人と比べて要領がい。いや、比べるのも失礼になるくらいになるかもしれない。尋常ではない速度で飲み込み自分の力に昇華していく涼太の能力は正直言って怖くなるくらいだ。幼い頃から間近で見てきた私は持って生まれたその才能に何度も度肝を抜かれている。
……幸い、というべきか私は勉強面などで抜かされたことが無かったので周りのような扱いを受けたことは無かったが、才能ゆえに自身より能力のない者や越してしまったと認識した“興味のない人間”に対して辛辣な態度を取る涼太の悪い癖で彼自身が反感を買うことも多かった。
その度に嗜めたりしたのだが……まあ仕方がないのかと私自身思う。別に本人は好きでやっている訳ではなかったのだし、反感してくる人間に対しての涼太なりの処世術だと思えば私から偉そうに言うものではないんじゃないかと思ったからだ。……でも、そうだなあ……。

 すげええ!!という声と女子独特の甲高い悲鳴に意識を戻され涼太を見れば、どうやら飽きたのかサッカーゴールにボールを蹴り入れている所だった。たじろぐ先生を余所に面倒臭そうに首を回しながら校庭を歩く幼馴染の姿においおい、とツッコみながら見つめていれば涼太と目があった。背が高いから見える位置だったのだろう。羨ましいなおい。

「玲ー!!」

 ぱああ、と先程の無表情から一転嬉しそうに手を振ってくる涼太に釣られてグラウンドにいた全員が此方へと視線を向けてくるので反射的に机に突っ伏してしまった。おいいやめろおおお!!なんて冷や汗をかきながら思いつつ、再びそっと外を見れば涼太だけが手を振っているだけだった。見えない位置で良かったと安堵しつつ返さないとずっとそうやってる居るのだろうと思ったので小さく手を振り返してあげた。……あーあ、後で逃げないと涼太来そうだなあ。
 ――先程の話が折れてしまったが、確かに涼太があのような態度をするのは仕方がないと思う。……でも、こうも思うのだ。あんな笑顔を向けられる仲間に涼太も出会ってほしい。何か一生懸命に頑張れるものを見つけて欲しい、と。
 嬉しそうに笑う涼太を見ていると、何故だか自然と私も笑みが浮かんでくるから。

「……白村?」
「は、はい!」

 誰かに肩を叩かれ思わず声が裏返ってしまった。恥ずかしくて熱くなる顔で声の先を見れば赤い髪をした彼……えっと、赤司君?が立っていた。反射的に距離を取ろうとしたせいで椅子が嫌な音を立てて壁にぶつかった。おまけに背中もぶつけてかなり痛い。

「この間のテスト返されてたけど、お前ボーっとしてたから一緒に取ってきた」

 はい、と渡されたプリントをお礼をいつつ慌てて受け取れば面白そうに赤司君は笑って隣の席に座ってくる。あまり話したことが無いのによくこんな大人数のクラスの中で私の名前を憶えてるなと驚いてしまった。私はあまり人の名前を覚えるのが得意ではないので尊敬してしまう。
 しかも極力避けているのに関わらず彼から話しかけてくることにも意外性を感じていた。……が、それよりも感じる凄まじい威圧感と違和感。確認したくはなかったが勇気を出し引き攣った笑顔で目の前の彼に尋ねる。

「あ、赤司君席違うよね……?」
「ああ、これから今までの復習テストをやるらしい。答え合わせは隣の席の人と交換してするらしいんだけどオレも白村の隣席も最近来ないからな」
「それで先生からペアになれとお達しが来た感じですか……」
「そういうことだ。多分これから一緒に組まされることになると思うから」

 ……よろしくな?と微笑んだ赤司君の表情に私は冷や汗をかきながらそれはもう力一杯強く頷くことしかできなかった。


2012/08/19

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