主将の思惑



 放課後の体育館はいつも賑やかだ。特に部活終了直後は厳しい練習からの解放感からか思わず弱音を吐く者、嬉しそうに先程の練習内容を話す者。多種多様な声で溢れかえっている。呆れたことにその場で座り込んでいる者もいるくらいだ。
 そんな集中力の途切れた部員たちを見て僅かばかりに眉を寄せた主将――赤司の顔に上級生たちは慌てて掃除をしろと尻を叩きに奔走する。そんな一連のやり取りを横目に入れながらベンチに座り汗を拭っていた4人は再び話の中心にいた人物である黒子へと視線を向けた。4人とは後に“キセキの世代”と称されることになる赤司・青峰・緑間・紫原だ。

「その白村という奴が黒子を見つけられるということは分かった。だが、それに何の問題があるのだよ?」
「そうだよ赤ちん。たまたまってこともあるじゃーん」

 くだらないと一蹴する緑間に黒子が僅かに眉を上げる。一歩前へと踏み出し、反論しようと口を開きかけた彼の肩に重い負荷がかかった。――視線を辿ればそこにはニヤニヤと楽しそうに笑う青峰の顔。面白いぞーアイツ、と3人に対して話す青峰の姿に一方的に青峰くんがカラかっているだけでしょうと黒子が静かにツッコミを入れた。

「バスケはまあ素人だが状況把握能力が以上に良い。初めてテツとバスケしたにも関わらず一度もテツを見失わなかった。……もしかしたら持ってるのかもな」

 これ、と自身の目を指さす青峰に紫原と緑間も目を丸くする。仮にも帝光バスケ部エースである青峰にそこまで言わせたのだ、流石に気にならない訳でもない。それに黒子にしても、やけにその女子生徒に対して肩入れをしている。彼らの中で“白村玲”という人物がどんどん訳の分からない人物になっていた。
 うーんと首を捻りながらまいう棒を齧る紫原を見ながら赤司は小さく笑う。

「それに本人は自覚なし、と来たものだから怖いね。青峰がいう気の強いイメージも正直想像が出来ない。クラスでの姿とは大違いだ」
「え、赤司何でしまむらのこと知ってんの?」
「2人が同じクラスだからですよ、青峰君」

 ええっ、と思わず声を上げた青峰に煩いのだよ!と叱咤が飛んできた。睨み合う青峰と緑間を余所に赤司は考えるように腕を組み黙っている。

「……話そうにも何故かオレが近づこうものなら直ぐに逃げるからな、白村は」

 ……まあそれは白村に同意せざる負えない、とその場にいた全員が内心考えたのは言うまでもないだろう。掃除をする部員たちの声を背景に微妙な雰囲気の流れ始めたこの場に合わないのんびりとした声で「じゃあバスケ部に一度連れて来ればいいじゃんー」と紫原から意見が出される。が、無理ですね。と黒子が即座に返答をした。

「バスケはしてくれるんですけど、“バスケ部”になると絶対来たがらないんですよ」
「なんだそれは。バスケに関してなにかあったのか?」
「分かりません。というかあったら僕たちとバスケなんか一緒にやりませんよ」
「……ねえ、テツ君たち何話してるの?」

 長い桃色の髪を結い上げボードを手にしたマネージャーである桃井が不思議そうに中へ入ってくる。普段なら早々に体育館から出ている筈のメンバーがいつまで経っても話し込んでいたので気になったのだ。黒子から一連の話を聞き彼女もまた、驚いたように目をぱちくりと瞬かせている。

「白村さんって、あの生徒会副会長やってる人だよね?」
「本人は不本意ながらなったと言ってましたが、その白村さんで間違いないです」
「やっぱり!へえーそうなんだあ、ちょっと意外。私選択授業一緒で席隣同士なんだけど話したこと無かったから、今度声掛けてみようかなー」

 嬉しそうに笑った桃井に対しておー怖え、と頭をかく青峰。膨れっ面で彼を叩く桃井に逃げ出す青峰の追いかけっこが始まったところで赤司が何か思い出したのか小さく声をもらした。

「そういえば白村って副会長だったんだな。……ということは次期生徒会長、ということか」
「赤司君?」
「面白いことになりそうだね、ああ楽しみだ」

 ……玲さん、どうやら凄い人に目を付けられたみたいですよ。
 意味深に呟き口角を上げた赤司を見て、黒子は生徒会室で悲鳴を上げているだろう友人を思いそっと合掌した。
 
―――
気分転換に普段の書き方で書いてみました。
やっぱり一人称視点よりは書きやすいですね。というか赤司君の口調がいまいち分からない……。

2012/08/18

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