泣き虫くん



 ドスドスと音を立てて階段を登った先に目当ての部屋がある。もう何度来たか分からないくらい馴染みのある家だ。どこに何があるか、勝手知ったるお陰で迷うことは一切ない。(まあ、その逆も然りなのだが)……うし、鍵がかかっている形跡なし。というかこれ、完璧構ってオーラ全開やんけ。とか思いながらガックリと肩を落とす。まったく、幼馴染というよりこれじゃあ大きなわんこを飼っている気分になってくるわ。
 ノブに手を掛け私は深く息を吸うと勢いよく扉を開いた。

「おーい、まっきろきろすけ出ておいでー。出ないと目玉ほじくって、ついでに殴っちゃうぞー」

 部屋に入って最初に目に入った大きな布団の膨らみ。うっ……微妙に鼻を啜る声が聞こえて来るせいかやけにリアルで嫌なんだけど。
 よいしょーと掛け布団をひっぺ返せば制服のまま蹲ってしくしく泣いてる涼太が居た。ちょ、おま。制服しわになるぞ。「ほら、きろすけ起きなさい」なんて頭を軽く叩いても一切反応なし。……ありゃ、いつもならツッコんでくるのにしてこない。これは重傷だわ。

「ほら涼太、ばんざーい」

 そう言って涼太の両手を掴み起こしてベットサイドに座らせる。うーと目を赤くして泣く涼太の前に座りテーブルにあったティッシュで涙を拭ってあげた。あーいい男が台無しだわ。
 よしよし、と頭を撫でれば鼻声で名前を呼んで来た途端抱き着かれた。い、痛い……。なんて言ったらもっと泣き出すんだろうと思ったから、ぎゅうぎゅう抱きしめてくる大きな幼馴染の背中を叩いてあげることに専念する。

「うう……オレまっきろきろすけじゃ無いッスよー。というかまっろくろすけでしょそれ……」

 ガラガラになった声で漸くツッコまれたことに少しだけ安心した。「暗い所に隠れてる辺りそっくりじゃない」なんて言ったら「誰のせいでこうなったと思うんスかああああ」なんてまた泣き出してしまった。本当こいつ泣き虫なだな……。

「ごめんごめん」
「玲の馬鹿あああ、もう知ら……なくないッスううう」
「……そりゃどうも」

 お前もトトロ好きじゃねえか、と心中でツッコみながらさっきよりは落ち着いたらしいので離れたら今度は手を握られた。まあいつものことなので好きなようにさせておくことにする。これ以上荒れると晩御飯がもっと遅くなるし。

「別に涼太のこと無視してる訳じゃないよ?ただクラス違うし、委員会が忙しいだけで……」
「分かってるッス。オレだって仕事あって忙しいし……でも、」
「でも?」
「お昼くらい一緒に食べたいじゃないッスかああああ」

 何で逃げるんだあああみたいな事を言われ、思わずドキッとしてしまった。べ、べつに女子の目が痛くてに、に、逃げてなんかいないんだからね!……ってなんだこれツンデレみたいで私キモ過ぎる。
しかも最近は生徒会の集まりで引き継ぎ作業やらなんやらがあって忙しいのだ。授業が終わった瞬間直ぐに生徒会室へ行くせいで恐らく逃げている様に勘違いされたのだろう。め、めんどくせえ……。

「……じゃあ、今度の水曜日一緒に食べよう」
「午前授業の時ッスか?」
「そう。ついでにお弁当を作ってきてしんぜよう」

 メソメソジメジメしていた雰囲気から一転、一面お花畑のような雰囲気になったので取り敢えずご機嫌は取れたようだ。ぱたぱたと尻尾を振っているように見える辺り、そろそろ末期かもしてないなあ。なんて思いつつお弁当のおかずのリクエストをしてくる涼太に相槌を打ちながら立ち上がる。あ、手繋いだままだった。……まあいっか、誰もいないし。

「おかずの話は良いけど、取り敢えず夕飯食べよ。お腹すいた」
「んで食べた後一緒に金ロー見ようスね!」

 ばっちり録画済みッスと意気揚々に言う涼太に一緒に見るのは決定事項なのね……。と思う反面、なんだか昔に戻ったようで懐かしい気持ちにもなっていた。
 生徒会の事は……まあ、今度説明すればいいや。

2012/08/15

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