隣の晩御飯



 黒子君と謎の攻防戦を繰り広げたせいか、ぐったりとした気分で道を歩いていたら漸く見えてきた我が家にほっと安堵したのと同時に電気が付いていないのかやけに暗くて、あー母さん今日遅いのかななんて思った。お隣さんの黄瀬家が明るい分、その明暗の差に羨ましいなあ。と思ってしまう。っていうか、涼太もう帰って来てるんだ。珍しい。なんて電気の付いた部屋を横目に入れつつ帰宅する。
 案の定リビングに入ればテーブルの上に置手紙らしきものが置いてあった。うーん何食べようかななんて考えながらメモを読む。は?「黄瀬家へ行け」?なんでや。
 ――私が中学に入ってから母さんが仕事に復帰したので最近は殆ど一人で夕飯を食べることが多い。別にそれは構わないし、寧ろすみませんっていう感じなのだが何故今日に限って黄瀬家なんよ?……まあ逆らうつもりなんてないんだけどさ。
 面倒臭かったので制服のまま鍵と携帯だけを持って家を出ると徒歩3分以内に着く黄瀬家へと向かう。インターホンを押せば「空いてるから入ってー」という小母さんの声が聞こえてきた。

「ただいまー。って違う、お邪魔しまーす」

 小さい頃から来ているせいで最早我が家同然の黄瀬家だ。うっかり間違えるのもご愛嬌ってことにして欲しい。隅にある私専用となったスリッパを履いてリビングに行けばそこは美味しそうな匂いで一杯だった。シェイク飲んだはずなのに匂いに釣られてか鳴ったお腹の音に小母さんが楽しそうに笑って迎え入れてくれる。うう恥ずかしい。

「今晩はー」
「お帰り、玲ちゃん」

 キッチンに立った小母さんが忙しそうに動き回って料理をお皿に盛りつけていた。おー今日はハンバーグだ、ラッキー。小母さんのハンバーグ美味しいんだよねー。テンションが上がって笑顔だったのだろう「喜んでくれたみたいで嬉しいわ」なんて小母さんが言ってくれた。
 小母さんマジ天使や……!!とか思って穏やかな気持ちになっていたら、ふと違和感を感じる。あれ、いつもならもっと喧しくなるんだけど……なんでだろう?
眉を寄せて考えていたらいきなり「玲ちゃんに仕事を依頼します!」なんて肩を叩かれた。うお、な、なに。

「部屋に籠っていじけてる黄瀬涼太くんを連れてきてください!」
「……は?」

 ああ、だから静かだったんだ。いつもなら玄関先から「玲いらっしゃいッスー!」なんてじゃれてくるのに変なの。つか、いじけてるってなにそれ。
 意味が分からない私に小母さんも肩をすくめて、困った子よねー。なんて言ってる。

「最近玲ちゃんが構ってくれないって前からブツブツ言ってたんだけど、今日玲ちゃんが来るって言ったら今度はオレが構ってやらないッスとか何とか」
「……アホか、涼太」
「……アホよねえ」

 小母さんと私の溜息が重なった。

2012/8/14

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