サイン貰った方が良いのかな



 帝光の制服って汚したらクリニーング代高そうで怖い。それが入学して最初の印象であり、私にとっての学園生活最初の悩みだった。……まあ、慣れればというかブレザー脱いでれば良いじゃん、という答えに行きついたので速攻でブレザーをクローゼットに封印したのが。
 一発目の問題もあっさり解決したお陰でか入学して数か月した現在は特に問題もなく、人生2度目の中学校生活をのほほんと満喫していた。

「んじゃあ、今日はここまで。次回までに次の所を予習してくるように」

 授業終了鐘と共に一斉に出て行った男子達はきっとこれから部活動があるのだろう。バスケットボールを持っている辺り(何故教室に持ち込んでいるのかは謎だが)ウチのクラスの男子大半は男子バスケ部に所属していることが何となく予想できる。なんたってバスケ部だけで100人以上いるらしいし。(入学直後の新入生歓迎会で説明を聞いて目ん玉が飛び出るかと思った)
それに隣席の男子がもうすぐ全中?とかいう試合が近いってマシンガントークよろしくこの前話してくれたから、皆張り切っているんだろうなあ。
 走っていく男子たちの背中に心の内でエールを送りながら私も教室を出ようと扉に向かって歩いていると、背後から突然誰かにぶつかられ思わず前につんのめりそうになった。反射的に近くにあった机に掴まり事なきを得たが、ぶつかって来た奴は誰やと振り向けばそこには吃驚するくらい真っ赤な髪をした男子の姿。不意打ちすぎて文句を言おうとした口が開いたままになってしまった。

「ごめん、大丈夫だったかい?」

 優しい口調なのに威圧感のある彼の雰囲気。本能的に気が付けば後ろへと後ずさりしていた。うおおおこんな人ウチのクラスに居たっけ?!なんて内心焦りながらぼのぼのみたいに冷や汗をかいた私は首を勢いよく横に振る。

「大丈夫です、こちらこそすいません!」

 じゃ、これで!と脱兎の如く飛び出した私は未だに煩く拍動する心臓に手を当て深く深呼吸をする。……絶対あの人“モブ”じゃねえ、と思いながら今度からもっと周りに気を付けようと悔い改めていた。
 ――暫く歩いて気持ちも落ち着いた頃、漸くお目当ての図書室に到着する。来た理由は本を借りに来たというのもあるが、今日はなにより私が入っている図書委員会があるからだ。
室内に入り先輩たちに挨拶しながら書類を取り適当な席に座る。どうやら全員揃ったらしく話を始めた委員長から今日の仕事を言い渡された。内容は男女ペアになってお勧めの本の紹介を書いて欲しいとのこと。何故男女なのかはよく分からなかったが、恐らく男子と女子どちらにも受けのいいもの書いて欲しいからとかそんな感じなのだろう。
 ……そんなことを考えていたらいつの間にやら段々ペアが出来上がりつつある状態になっていた。うわ、このままじゃボッチになると焦りつつ周りに1年生の男子居ないかなあ。なんて見渡してみれば机の隅に座る1年らしき男子生徒。髪色がなんか気になるけど、まあいっかなんて思い声を掛ければ無表情ながらも僅かに驚いたような表情を浮かべていた。……なんで彼の表情が分かったのかは、聞かないでほしい。私自身もよく分からないから。

「君、1年生だよね?私も1年生なんだ。良かったら一緒に組まない?」
「はい。此方こそお願いします」

 礼儀正しい子だなとか考えながらペアになる交渉が成立したので、取り敢えずお互いに好きな作品を持ち寄ることにした。一応それなりに本が好きなので、どれにしようかなあーと室内を見て回っているだけでも何だかわくわくしてしまう。鼻歌交じりに本棚を見ればふと見覚えのある作品を見つけた。……以前自分のことのようだと思ったあの本だ。

「うわ、懐かしい……」

 表紙を開き中を流し読みしていると何ともいえない懐かしさが込み上げて来る。こっちの世界にもあるんだ。なんて感動していたら「この作品良いですよね」と突然声を掛けられ、情けない悲鳴と共に本を落としそうになる。が、また反射的に掴み直し事なきを得た。……なんかこの身体、やけに反射神経良くないか?

「すいません、驚かせてしまったようで」
「あーううん、大丈夫。ぼーっとしてた私が悪いし」

 安心させるように浮かべた笑みに小さな笑みを返してくれた彼に思わずキュンとしてしまった。や、やばい、もしかして私ショタコンなの……?!い、い、いや、一応私これでも同年だし、彼に対して……ん?

「あれ、そういえば自己紹介してなかったね」
「そういえば」
「私は白村玲。――組の」
「僕は黒子テツヤです。よろしくお願いします、白村さん……って、あの、どうしました?」

 く、黒子のバスケきたあああああ!!

2012/08/14

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