本当、大人げない



「玲、マグロとって欲しいッス」
「はいはい」

 流れていく沢山のネタの中でお目当てのものを見つけ隣にいる涼太に渡せば満面の笑みでお礼を言ってきた。うおおお笑顔が眩しい。
思わず目を細めた私に「玲の変な顔可愛いー!」なんて抱き着いてくるから顎にパンチをお見舞いしてやった。変な顔で悪かったな、ちくしょう。

「涼太あんた、モデルなんだからもうちょっと大人しくしなさいよ。バレるよ」
「大丈夫ッスよ、ちゃんと変装してるし」

 おま、眼鏡掛けてるだけのそれを変装っていうのか。バレバレだよ、ほら寿司握るオッチャン挟んで座ってる席の女の子こっちガン見してんぞ!
離れろと涼太を引きはがし取っておいたイカを頬張っていたら今度は腕に自分の腕を絡めてきた。この引っ付き虫め……!!

「良いじゃないのー少しくらい」
「そうッスよね、流石小母さん!なんか最近玲構ってくれないし、淋しいんスもん」

 よよよ、とグリグリ肩に頭を擦り付けてくる涼太と恐らくしょっぱい顔をしているのだろう私を見てニヤニヤとする真向いの母親と小母さんの顔が憎らしくて思わず頬が引き攣る。……というか何度言えば分るんだ、このアホは。
 ――ここ最近になって急激に成長した涼太は気が付けば私よりも遥かに高い身長になり(ドヤ顔されたので一発殴ったのが懐かしい)、そのルックスと合い重なってデルモ……いや違う、モデルになったのだ。
お陰様でどこかのジャニーズよろしくいつも涼太の周りには女の子の人だかり。正直言ってかなりウザい。同級生や近い学年の子達は私達が幼馴染だということを分かっているのでヘンに絡んでこないが、学外の女の子たちといった奴らはもれなく私に因縁を付けてヘンに絡んでくるようになったのだ。女って本当怖い。しかも私自身“違う世界”に来ているという認識がある以上、これ以上はヘンに巻き込まれたくない。昔から何となく感じてはいたけど……涼太は“モブ”の人ではないと思うから。
 だからこそ、なるべくなら離れているべきでこれ以上関わりたくはない存在なのだ。別に嫌いになった訳ではない。ただ彼のことを思えばこその選択だ。

「だから、涼太といると女の子沢山ついてきて面倒なの」
「……じゃあ女の子達全員居なくなれば玲は一緒に居てくれるんスか?」

 すっと細くなった目に一瞬言葉を失ってしまう。……って、何見惚れてんだ私。思わず熱くなった頬を片手で抑えてから、軽く涼太の脇腹を小突いた。ぶへっと情けない声が聞こえ涙目になる顔に小さく溜息をつく。

「あのねえ……もうすぐ中学生になるんだよ?また同じ学校になる訳ないじゃん」
「そーれはどうかしらねえ」

 うふふ、と柄にもなく気味の悪い笑みを浮かべる母親の顔に嫌の予感がする。隣を見れば小母さんも同じような顔をしていた。ああ小母さん綺麗だからそんな顔も凄く似合うわ……。
 怖気づいてるのも癪だったのでどういうことだと聞いてみれば、小母さんからおもむろに分厚い封筒を渡される。封筒の表紙には“帝光中学校”と書かれいた。

「白村玲ちゃん、黄瀬涼太くん。君たちにはこの中学校に受験してもらいます」
「はーい!頑張ろうッスね、玲」
「待てええええい!!」

 封筒をばんっとテーブルに叩きつけ、ついでに涼太の頭も叩いておいた。何でこいつ知ってましたー!みたいな満面の笑みを浮かべてるんだよ、知らなかったの私だけですか?!なんて思いながら母親を睨めば素知らぬ顔で寿司を食べていた。

「玲ちゃん頭良いんだから、こういう所行かなくちゃ勿体ないよ」
「そうそう。あんた出来るだけいい所行きたいみたいなこと言ってたじゃない。ここ偏差値も中々だし、全体的に部活も強いみたいだし文武両道目指しちゃいなさいよ」

 それに……金出すの私達だからね?と今まで見たこともない笑顔で言われてしまったのでこれ以上何も言うことも出来なかった。ぐうの音も出ないとはまさにこのことだろう。
まあ、自分の人生だから有意義に過ごそうと過去の失敗を改めた結果が母親達の言う通り世間一般でいう“成績優秀”という信じられない部類に私が入ってしまったのは確かだ。私自身もなるべくなら良い所の学校に行きたいとは考えていたが、まさかもう決まっていたなんて……普通思いもしないだろう。

「文武両道は、流石に無理です……」

 溜息交じりに呟いた言葉に私を除く三人がわーいと万歳をした。涼太にいたっては「玲と一緒の学校!同じクラスが良いッスね!」なんて抱き着いてくるが面倒臭かったので無視して私はテーブルの隅に置かれたガリを空いた寿司皿に置き食べ始めた。
 ……あーあ、私の中学校生活どうなるんだろう。

「ってちょおま、私のガリ食べないでよ!このデルモ(笑)!!」
「だってこっからじゃ取れないんスもん!というか(笑)ってなんスか?!」
「「あははは、ホント仲良いね」」

2012/08/14

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