夏戦争 | ナノ



パステルカラーの仏像


 余所の家だということを完全に忘れ玲華は脇に小型PC、両手にはOZをログインさせたままのノートPCを持ち時折その画面を見ながら廊下を全力疾走していた。あまり体力に自信がないながらも息を切らし足を縺れさせながら突き当りを左に曲がれば目的地である部屋の扉前に小さな2つの影が見える。
 おそらく健二が扉を抑えているのだろう開かない扉の前で真悟と祐平が開けろー!!と叫び扉を叩いていた。その様子を一瞬玲華は見ると手元にあるPCへと視線を下す。――キング・カズマとギザギザの口をしたパステルカラーの大柄な仏像が拳を交えている。先程までキングが優勢だった筈なのに気が付けば相手方が優位になっていることと他のアバターを飲み込み変容した仏像の姿に言いようのない嫌悪感を抱きながら玲華は小さく舌打ちをすると、再び歩を進め2人に近づく。

「真悟くん、祐平くんっ」
「あ、姉ちゃん!!ここにユカイハンがいるんだ!!」
「佳主馬がゲームやらせてくれないんだ!!」 

 彼女の姿を見た瞬間足元にくっ付いて来た2人の必死の表情と食い違う言葉に頭がこんがらがりそうになるのを玲華は首を振り跳ね退けると、口元に微笑を浮かべ2人の視線に合う様に屈みこんだ。

「それよりも2人共、お母さんたちが呼んでたよ?お姉ちゃんがそのユカイハンを捕まえて置いてあげるから行っておいで」
 
 美味しいものかもしれないから、真緒ちゃん達に取られちゃうかもよー?と2人が食いつきそうな嘘を言えば見事に玲華の思惑通り真悟と祐平は慌ただしく広間の方へと駆けて行く。それと同時にPCから“K・O!!”と甲高いアナウンスが聞こえてきた。
 画面にはOMC王者であるキング・カズマが力無く大の字に地面に沈み、動かなくなる姿を見つめ仁王立ちする仏像の姿。新チャンピオンである仏像の体が眩い光に包まれる。嫌な予感が玲華の背筋に冷たく走った瞬間――OZ内に再び活気が広がった。アバター達の視線の先には、キングの片割れと言ってもいいもう1人の王者、OMCG女王であるクイーン・レイカが仏像の後頭部へ銃口を突き付け鋭く睨みつけている姿があったからだ。

「健二、ここ開けて!!」

 女王がOZに現れたの当時に扉越しに向けられた鋭い声に画面を見つめていた健二はビクリと肩を揺らす。蹴っているのか激しい音を立てて揺れる扉に、彼と同じように画面を見つめていた佳主馬は勢い良く振り向くと健二に向かって声を上げた。

「お兄さんそこ開けて!!」
「え、でもっ、この声って……」
「クイーンが――レイカが来たんだ、だから早く!!」

 佳主馬の剣幕に圧され健二が慌てて扉から離れれば雪崩れ込む様に玲華が入ってくる。片手でキーボードを操りながら空いたもう片方の手で器用に脇に挟んでいた小型のPCを開き、今まで健二が見てきた彼女のタッチ速度とは段違いの速度で打ち始めた。
 その間にも画面では仏像とレイカが信じられない速度で攻防戦を繰り広げている。玲華の肩越しに画面を見つめながら健二はそのハイレベルの戦いに、そして少し前まで尊敬の念を向けたアバターの主がまさか自分の身内だとは思わず目を白黒とさせ言葉を失っていた。


2011/01/10

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